えぴ58

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「それじゃ、数人さん。話してくれるっスよね?」 「あ、ああ、ああもちろんだ。」 やはり真面目な話だったか、直前の浮かれきった自分が恥ずかしいし今さら丸出しの下半身がはしたないことを自覚した。さりげなく布団を引っ張り上げて急所を隠すことに成功。スイッチを切り替え、ちゃんと話を聞き、答える姿勢を取る。 「だがその前にまず…、隠してしまって本当にすまない。」 数人が真摯に頭を下げると固い顔でキリッとしていた英護の頬の筋肉が緩む。 「いや、俺こそ…ガキみたいにワガママで束縛しちゃってごめんなさい。あんたの何もかも把握してないと嫌ってわけじゃないんで、話したくない部分は言わなくて大丈夫っス。でもこのままじゃ気になってモヤモヤが晴れなくて。」 「ああ、分かった。」 数人はその通りにして隠していた内容を英護に打ち明けた。ざっくりまとめると贔屓していた配信者の配信スタイルが変化したことに戸惑っていた、と言うことだ。そう思うとつくづく隠すような話ではなかった、あの時すぐにこう答えていれば英護に悲しい顔をさせなかっただろうと後悔する。 名前は出さなかったし求められなかった。英護は話の合間適当に相づちを打ちながらも真っ直ぐな瞳で数人を見ていた。あらかた説明が終わると彼は神妙な面持ちで顎に手を添え熟考してる様子が終わるのを待った。 「…なるほど、聞きたいんスけど…」 「ああ、なんだろうか。」 「その配信者って…男っスか?」 「……………。」 英護の口に出しにくそうな、聞きづらそうな顔を見てもっとディープなことを聞かれると覚悟していたから「なんだそんなことか」と口をつきそうになった。しかし一旦冷静に考えてみよう。自分にとってはそうでなくても彼にとってそれはとても重要なのだろう。決して軽んじず、隠さず…ちゃんと答えた。 「ああ、男だ。」 「………ううぅ~っ」 男だ、の瞬間僅か目を見開いた英護は言いたい言葉を押し止めているのか表現のしようがないのか顔を上げては口を閉じ、開いては顔を背けたりと一通り忙しそうにした後、やきもきしたように自分の髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱した。 「やべえ俺超めんどくさいやつ…!」 「そんなことないぞ、君は優しくて真面目で丁寧な青年だ。」 独り言のようだったが即座に反応してしまった。それが余計に英護を悩ませたのか、唇をムムム、と引き結んだ英護は眉間に深々とシワを刻み、しばらくして私の胸の内に頭を寄せてきた。 「今、あんたはこんなに近くにいるのに…っ俺めっちゃ嫉妬してる…っ!俺が1番あんたのことを…!」 「?」 顔を上げた英護が何故そんなに必死な様子なのかもよく分からない。キョトンとしたまま次の言葉を待っていると英護は再び切なそうに眉を垂れさせ、頭を胸の方に寄せるからなんとなく撫でておいた。 「数人さ…ん、は…………俺のこと…………っき、…スか……?」 多分名前を呼ばれたはずなのだが、英護の声は意識して耳を澄ませてもほとんど聞こえないほど小さくて独り言だったか?と思うほどだった。もう一度言ってくれと口を開いた途端、英護が勢いよく頭を上げて焦った様子で回答を拒否した。なんだか顔が真っ赤だ。 「やっぱ無し!今の無しで!忘れてください!」 「…?」 忘れるも何も、いや何も聞こえなかったのだが…?彼がそう望むのであれば従おう。
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