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「…………………。」
現在、23時。
数人は自宅のリビングで1人である。
目の前には開封さえしてない旅行雑誌がなんとも侘しさを強調させていた。
「…………。」
すっかりはしゃいだ心が萎えた数人は、ただ心配そうに時計を見てはスマホの履歴を確認する。おかしい、今まで帰宅が遅れることがあっても彼は21時までには帰ってきていた。
なんの連絡もなくこんなに遅いのは初めてだ…。
「…………。」
何か事故か事件に巻き込まれたのだろうか。気を紛れさせるためテレビを付けてニュースを流していたが、いつ近所で大きな事故の報道があるかもしれないと思うだけで不安でたまらず、生きた心地もしなかった。
ピロン♪
「!」
帰宅を急かすのもよろしくないと21時に「迎えに行こうか?」とだけメッセージを送っていたのだがその返信が今来たようだ。
既読がついたのもたった今のことのようで…こんなに連絡がないことも初めての経験だった。急いでメッセージの内容を確認すると『遅くなりますので先に寝ててください、食事は食べてきます。』…とだけ。
「………っ。」
電話掛けようか、と思ってやめた。
連絡が返ってきたのに心配だった。
でも返してくれたのに欲張るのは己のエゴだ。それなら電話するのはよろしくない。落ち着け数人、冷静になれ…。
「すぅ…はあ。」
早回しになる胸の鼓動が鎮まるまで深呼吸を繰り返す。脳にたっぷり酸素を送り届け、そして決心した。旅行雑誌を手に取り…カバンに仕舞う。
「……………。」
テレビを消した。食事を摂る気分じゃない。
シャワーだけ浴びて、寝てしまおう。
そうしないといつまでも気にしてしまう。
数人は重い足取りで風呂場へ向かった。
温かいシャワーを浴びたことでよく眠れると信じていたが、結局ベッドに潜り込んでも一睡も出来なかった。読書するでもなく、ただ布団にくるまり時が過ぎるのを待った。
カチャ…
「!」
ドアの鍵が開けられた時刻は午前2時。
もう帰って来ないのかと…その音を聞いた瞬間、初めて自分が全身に力が入っていたことに気づいた。足音はゆっくりと寝室に向かってくる。とっさに寝たフリを決め込んだ。寝室のドアが静かに開けられる。
「……ただいま数人さん。」
ほとんど音にならない囁き声で呟いた英護の声。それから衣服の上から肩にキスをされた感覚。無反応の演技も大変だった。
その後、彼は再び静かに部屋を出て…シャワーを浴びにいったようだった。その時気づいたが彼から…なんとなく、香水が香った気がする。
「…………。」
いや、私は寝ていたのだ。今夜のことは何も知らない。何も情報はなかったのだ。
目を閉じ続け、英護が隣に潜り込んでも寝息を立て始めても数人は…朝まで一睡も出来なかった。
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