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えぴ60
「あら、安堂くん旅行いくの?」
「あ…」
資料を作ろうとカバンを開けた時に旅行雑誌まで流れて出てきてしまった。それを職員室に居合わせた矢車先生に偶然目撃された。
静かに雑誌をしまい、愛想笑いを取り繕う。
「予定…なんですけど、まだ何も決まってなくて…」
「あら!それならあたし、いいところ沢山知ってるわ!今度お茶でもしながら教えてあげるから、ね、ね、ね!」
相変わらず圧と勢いがすごい。顔を接近されるとパウダーの粉でむせそうだ。しかし失礼があってはまた騒動になるかもしれない…と数人は努めてニコやかに対応する。
「お気持ちはありがたいです矢車先生。でももしかしたら行けなくなるかもしれないので。」
「いいじゃないその時はそれで!ね、ね?無下にしないでちょうだい、お茶するだけでしょ?あたしの善意を踏みにじるつもり!?」
何度も断ってるせいか矢車先生の語気が荒い。このままではまた泣き出されそうだ、と気が焦ってしまった。
「わ、分かりました。よろしくお願いします。」
「約束よ!約束だからね!」
動きの固まった右手を掴まれ、指切りまでしたが満足した矢車先生は離れてくれて、心底ホッとした。言ってからやや後悔したが、断り続けるのも失礼だしな。異性とお茶会…なんの感情もなくても英護に相談しておくか。でもその英護もたまに朝帰りしてて…
「………。」
複雑だ、そうと決まった訳じゃないのに頭が、胸がひどくモヤモヤする。何も知らないのに、嫌な妄想がアレコレと勝手に組まれて落ち込む。この悪いクセが良くなるのであれば…この後のスケジュールが待ち遠しくもあるし、非常に緊張もする。
「よし…っ」
今は資料作りに集中しよう、と数人は椅子の上で背筋を伸ばした。外の天気は晴れ。本日はお出かけ日和になるだろう…
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