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「分かってるよ、倅のことだろ?こんなちっぽけな店に来る理由他にあるはずない。」
「その通りですけど、この店がちっぽけだなんて思ったことないですよ。」
これはお世辞ではない。自分の大切なスーツケースを修理してくれた店、英護にも出会って…自分の人生が変わったこのお店をそんな風に思っていない、と心から思っていた。
ボスはすぐに答えず、しばらくジッと数人を見つめ…その言葉が嘘じゃない、と納得すると大きな口を横に結んでニッと笑う。
「そいつはどうも。じゃあ行くか。」
「行く…とはどこへ?」
「決まってるだろ、海だよ!」
「うみ!?」
春うららとはいえ、まだ朝晩は寒い。余裕で寒い。数人は信じられない、と目を丸くさせたがボスはノリノリで車のキーを取る。
「大丈夫だって、倅のオンナに手出す趣味はねえ。来るのか?来ないのか?」
「おおおおオンナ…」
なんか、もう頭痛いぞ…しかしここで後退はチャンスを無にするということだ。腹を括って…数人は前に出る。
「いきます!」
「よっしゃ!助手席片付けてやる!」
そうして軽トラの助手席に座り…ボスの運転は荒れ狂う波のようで…会話のない気まずい空気は大音量のヘビメタがかき消してくれた。
海がオレンジに染まる頃、誰もいない砂浜で軽トラは停止した。
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