えぴ60

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「分かってるよ、倅のことだろ?こんなちっぽけな店に来る理由他にあるはずない。」 「その通りですけど、この店がちっぽけだなんて思ったことないですよ。」 これはお世辞ではない。自分の大切なスーツケースを修理してくれた店、英護にも出会って…自分の人生が変わったこのお店をそんな風に思っていない、と心から思っていた。 ボスはすぐに答えず、しばらくジッと数人を見つめ…その言葉が嘘じゃない、と納得すると大きな口を横に結んでニッと笑う。 「そいつはどうも。じゃあ行くか。」 「行く…とはどこへ?」 「決まってるだろ、海だよ!」 「うみ!?」 春うららとはいえ、まだ朝晩は寒い。余裕で寒い。数人は信じられない、と目を丸くさせたがボスはノリノリで車のキーを取る。 「大丈夫だって、倅のオンナに手出す趣味はねえ。来るのか?来ないのか?」 「おおおおオンナ…」 なんか、もう頭痛いぞ…しかしここで後退はチャンスを無にするということだ。腹を括って…数人は前に出る。 「いきます!」 「よっしゃ!助手席片付けてやる!」 そうして軽トラの助手席に座り…ボスの運転は荒れ狂う波のようで…会話のない気まずい空気は大音量のヘビメタがかき消してくれた。 海がオレンジに染まる頃、誰もいない砂浜で軽トラは停止した。
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