えぴ1

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放課後、職員室にて。 当然のように安堂の席は整然としており、私物の類いは一切ない。 今年は受け持ちのクラスもないしクラブにも所属していないから早く帰ろう、と茶色の革の鞄に仕事道具を仕舞っている時だった。 遠くの席から頭髪の少ない教頭に野太い声を掛けられた。相変わらずダミ声が耳に障る。 「安堂くーん、この前のアレ…マラソン?ボランティア?どっちだっけ。まあいいや、飲み会あるけど来るー?」 はあ…呼ばれる前に帰りたかったのに、肩を落とし、珍しく眉のシワを緩ませた。これは落胆の表情だ。 「すみません教頭、用事がありまして…」 「君は付き合い悪いねー、目上の人とコミュニケーション取るのは社会人の最重要行事じゃないか?それより優先する用事って何かね?」 「あー…」 面倒くさい、と言いかけた言葉を飲み込む。 そこへ、今年38歳独身の女性教師がドギツイ化粧の圧とファンデーションの香りを振りまきながら安堂にボディタッチする。 「教頭せんせぇ、安堂くんいじめちゃダメですよー、彼まだ20代なんですから!安堂くんはお酒の類いが一切ダメなんだから、アルハラですよぉ?」 「むむ、矢車先生がそういうなら…」 「いつメンでパーっと飲みましょ!ね?」 なぜ、ね?のタイミングでこっちを盗み見てウインクしたのか意味が分からない、謎過ぎる。だがいつもこうして助け船を出して貰ってるので腕を撫でられても文句を言えない。 「すみません、それでは僕は帰ります。」 「はーいっ!安堂くんさようならー。」 「お疲れさまです、失礼します。」 そうしてそそくさと職員室を出る。 教室よりも、ここにいる方がよっぽどストレス。どうして彼らは生徒のイベントにかこつけて、毎週のように飲みに行くのだ。 いや、理由は分かってる。彼らもまた、多大なストレスの捌け口を探しているのだ。 それに巻き込まれる方はたまったもんじゃない。参加費自腹だし、正座で説教されるし、そのせいで酒どころか食事も出来ないし、こちらにメリットなんて1つもない。 「早く帰って、今日はアップロードされてるか確認しないと…」 安堂には安堂なりのストレス発散方法がある。それを想像するだけで口角が上がるのをやめられない。急ぎ愛車に乗り込み、帰路につくのであった。
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