えぴ11

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秋晴れの、高い空。 季節は急速に変化し、紅葉する暇もなく冬の到来を肌身に感じる。 「はああ…」 職員室で作業をしていた数人は、不意に深いため息が溢れた。疲れやストレスによるものではなく、どことなく艶っぽい呼気だ。 「あらあら、珍しいですね安堂くんがた、め、い、き♡なんてっ。独り身が寂しくて夜に色々してるんですかぁー?」 すかさず独身レディの矢車先生が急接近してくる。上手く誤魔化すことの出来ない数人は不慣れな愛想笑いで沈黙を貫くしかない。きっと想像に容易いが、普段使わない筋肉を無理やり動かす数人の笑顔は不細工だ。 「分かるわァん安堂くん♡最近ベッドが冷たくて、あたしを暖めてくれる人、募集ちゅーなの。」 「は、はあ…」 ここで早くいい人が見つかるといいですね、と答えると何故か矢車先生は不機嫌になることは学習済みだ。 「やだっ、安堂くんってば男の子の顔してる!いやらしー何考えてるの、もう!」 「はぇ、すみません…?」 何も考えていなかったから自分の表情など意識してなかったが、女性にそう思わせてしまったのなら謝罪しておこう。全く全然、少しも意識していない。 やたらボディタッチしてくる矢車先生が握り拳を口に当てて腰をもじもじ左右に振る。 「ねーえ安堂くん、あたしイタリアンの美味しい店見つけたの。でもそこ、カップルが多くて入りづらくてぇ、よければ一緒に行ってくれない?来てくれるだけでいいの!食事は奢るし安堂くんみたいにカッコいい子隣にいれば、あたしも自慢出来るわ!」 「すみません、修学旅行のしおりを作りますので。」 「あら、やっぱり安堂先生はアンドロイドねぇ、何もかも完璧、それでこそだわン、また誘うからねぇン」 矢車先生は不満そうに頬を膨らませたが、なぜか急にご機嫌になり立ち去った。 やっと集中してしおりが作れる…。 とは言っても、毎年自分が作成を引き受けている。おおよその流れは毎年同じだ。 ある程度入力したら表紙などは学生に書き込みをしてもらう。その方が思い出になるらしい。そういう規則だから従っているだけだがな。
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