えぴ2

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最初のきっかけは、ネットの書き込みだった。 教師に成り立ての頃は何もかもが試行錯誤で忙しかったからストレスを感じてる暇もなかったが、四年を過ぎた辺りから余裕が出てきて毎日ストレスで胃痛が止まらなかった。 あの頃は毎日胃薬を飲んで、食欲もなかった。 そんな時、インターネットで不調を呟いたら親切な人が返信してくれたのだ。 「ストレスで食欲ないのツラいですね、私はそういう時咀嚼音のASMR聞いて元気出します~。人を選ぶけど、いいストレス発散になりますよ!」 ストレス発散の文字を見て、やらない手はなかった。酒やタバコは合わないし、趣味という趣味もなかったから毎日心が病んでいた。 そしてこれが相性ピッタリで、美味そうな料理を食べる映像、音を聞いていると自然と食欲を感じて、食べ終わった映像は何故か自分も達成感を覚えて気分が良かった。 そのうち、あらゆる咀嚼音のASMRから派生しスライムの音、川のせせらぎの音、あらゆる音が聞き心地良くて、毎日何十という動画を再生していた。 ありがたいことにインターネットには一生分以上のASMR動画が投稿されているので、それだけで十分なはずだった。 だがある日、ふと今まで避けていたジャンルに強烈に惹かれてしまった。 「シチュエーションボイス」…避け続けた理由は明白、聞くのが恥ずかしいから。 教師一家の数人が教師になることは当たり前で、学生の頃から日々真面目に勉学に励んでいた数人はお付き合いというものをしたことがない。ルックスは本人には自信がなくとも、数人の女生徒に告白された経験がある。 しかし「恋」など考えたこともない数人は驚きあわてふためいて拒絶し、逃げてそのまま大人になってしまった。人並みの性欲を感じたのも成人してから、とかなり遅咲きだった。 シチュエーションボイスのサムネはどれも卑猥な言葉で彩られている。だから再生するのが恥ずかしかった。だがその日は性欲が高まっていたのもあって…とりあえず、同性のシチュエーションボイスで慣らしてから次のステージへ行こう、と考えていた。 そして「ぼいす」と出会ったのだ。 ファンのリスナーから送られたイラストは赤毛のつり目で、こちらを誘うような不思議な色気があった。男の数人から見ても「カッコいいな」と思ったので、なんとなく再生ボタンを押してみたんだ。 咀嚼音からも、癒しのスライム音からも、雨や自然の音からも得られない「性的な声」。 訳も分からず、勝手に手が下半身に伸びて気づけば夢中になって扱いていた。人生初めてのオカズだった。性欲は事務的に処理していたので、初めて気持ちいいという感動に涙さえこぼれ落ちた。
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