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「大体10ってなんスか10って、多いっス」
「うーん…」
移動費などに充ててくれ、と言おうとしたがそれで納得する彼じゃない。また数字のカウントダウンの言い合いになるのが透けて見えるようだ。
「たまには両親に土産を贈りたい。旅行好きな君を宛てにして悪いが、引き受けてくれるか?」
「あああ安堂さんのご両親っっ…」
何故そこで硬直するのだろうか、何か変なこと言っただろうか?訂正しようかと思った矢先、英護は私の手をギュッと握りしめた。いつになく真剣な眼差しだ。
「安堂さんのご両親のためなら頑張るっス…!失敗は出来ないプレッシャーはあるけど、俺、精一杯頑張りますから!」
「う、うむ、よろしく頼む?」
全く予想していなかったがいい方向に転んだらしい。英護はヤル気満々だ。これなら旅費も受け取ってくれるだろう。金で解決したようにはしたくないが、両親も土産を喜ぶだろう。彼なら信頼できる。
「………?」
ふと、胸の奥がツキンと痛んだのはなんだろう?その痛みは暖かいような、不安で冷たいような…数人の知らない痛みだった。
「安堂さん、もう1ついいスか?」
「ん?なんだ?」
機嫌の良くなった英護に話しかけられたことで、その痛みもどこかへ行ってしまった。
ベッドで寝転びいちゃいちゃしながら話を続ける。
「明日から十日間、俺はあんたの体が雄を欲しがる発情期のメスになるようじっくりねっちり丁寧に開発します。」
「う、うむ…」
「毎回ホテルじゃ時間取られて効率悪いし出費ヤバイし、どうでしょ?これを機にどっちかの家に行きません?」
「確かに…」
英護の意見は最もだろう、私も公務員と言えどホテル暮らし出来るほど稼いではいない。
だがそう言われると、どっちにする?
英護なら私は全然家に上げていいと思う、だがそう切り出すと英護の家に行きたくないとか、面倒くさがってると思われるだろうか?
お付き合いの経験はなく、恋愛小説でしか知識のない数人は正解が分からず眉をひそめた。
「あ、ちなみに俺のアパートは壁めっちゃ薄いっス…安堂さんの声なら隣の家族とかに聞こえちゃうかも。」
「私の家にしよう。」
一瞬で、英護の部屋の隣に住む仲良し夫婦と幼い子供が、壁越しに自分の鶏声を聞いて目を点にする想像までした、無理だ耐えられない。自分のマンションなら防音室って訳ではないが少なくとも隣や上下の物音がうるさいと感じたことはない、その方が安全性が高いだろう。
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