えぴ3

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えぴ3

学校ではそろそろ修学旅行の時期だ。 長期旅行だと浮き足立つ学生と違い、教師陣は神経を張り詰めさせる。 親御さんからお預かりした大切な我が子を遠出から安全に、無事に、お返しする。それは簡単なことではない。それぞれの意思と個性を持った高校生なら尚更、悪事に導かれたり事故に遭わないよう細心の注意を払わなければならない。ざっと200人全員分、目を光らせなければならん。 「はあ…」 溜め息の1つも出るってもんだ。 早いうちに支度をしておこうか、と休日に押し入れからトランクを引っ張り出そうとした時だった。 バキッ! 小気味良い、プラスチックの割れる軽い音。 気づいた時にはひどく落ち込んだ。 「ああ、あーあ、ああ…」 反対の押し入れから押し込んだ長い棒が引っ張り出すトランクにつっかえ、見事トランクの胴体を突き破っていた。これはガムテープで補修とかいう問題ではないぞ…。 「これ、お気に入りだったのにな…」 成人してから何かと使うだろうと、初任給で買ったお高いキャリーケース。雨に濡れても手入れしやすいよう強固なプラスチック製を買ったのだが、老朽化には耐えられなかったらしい、もしくは見えないところで長い棒がすごい刺さりかたしたのか? なんにしても、運が悪い。 トランクケースはこれ1つきりだった。 外出は嫌いではないが、今日は読書してゆったり過ごそうと思っていたから余計に腰が重い。だが、こうなってしまった以上は仕方ない。駄々をこねても現実は変わらないのだ。 「出掛けるか…」 分かっていても渋々と重い腰を上げ、数人は車のキーを手に取った。
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