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「………すみません、ダサいっスね、俺。」
10分ほどだろうか、急に英護が声を上げるからびっくりした。それまで本当に何も反応がなかったから…。
「そんな風に思ったことはない。」
数人は本心からの言葉を、努めて穏やかな声で語りかけた。すると英護は心を少し開いたのだろう、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「俺…ダメなんス、ドアの音…叩いたり鐘の音を聞くと、全身汗がブワッと噴き出して頭が真っ白なるんス。怖くて怖くて…動けないんス…。」
なるほどだから自分が訪問する時もチャイムを鳴らさないのか。いや、鳴らさないんじゃない、鳴らせないのか。チャイム恐怖症は珍しい部類かもしれないが何もおかしなことじゃないだろう。だが英護はそう思っていないらしい。
「バレたくなかったのに…こんな、アッサリと…嫌いに、なりました?」
「何故そう思う?」
「だって、情けないし…ダサいから…。」
ここで誰にでも優しいヒーローのような物語の主人公ならなんて言うだろうか…人生で読んできた全ての小説を振り返ったが、ハッと気づいて自分の頬をピシャリ叩くと英護が驚いて顔を上げた。
だって、誰かの素敵な言葉を引用したところで自分の言葉じゃない。そんなの、響くはずもない。
「…まず、大前提として私は恐怖症を持つ人のことをカッコ悪いだとか、情けないだとか思ったことない。でもそれだけじゃ、君は納得しないだろう。」
「…?」
ああ、英護に期待に満ちた目で見つめられると弱るな…。意味もなく自分の髪をわしゃわしゃかき乱す。
「なんと言ったらいいか…でも、分かって欲しい。君がコンプレックスに感じる弱味や、嫌われると思うところ…もうそんなんじゃ、嫌いになれそうもないんだ。」
この気持ちに名前を付けるなら、なんだろう…?フワッと温かいのに、キュッと胸が締めつけられるようで苦しい。それでも、離れたくない。二人でいることが喜びだ。
もっとスマートで心に残るような名言はたくさんあったけど、頼らなかった。結局どこか誰かの言葉を借りてしまったかもしれないけど、今はこれが全身全霊の精一杯。
英護に呆れられてないだろうか、心配しながら彼を見つめたが…
「……ありがとう。」
落ち着いた小さな声で呟き、キスをされた。
なんだかいつものキスと違う味がする。
なんだか、いつもの官能を引きずり出されるキスと違うのにクラクラと目眩がして…ドキドキする。どうして私はまだ、この気持ちに名前を付ける勇気が出ないのだろう…?
「安堂さん…まだ、我慢するから…」
ズルズルと体を引きずられ、ペロンとズボンを剥かれる。それから両足で英護の胴を挟む形に落ち着く。股の間から覗く英護の肉棒は破裂寸前に膨らんでいた。心なしか、いや確実に彼の声も上ずり、野生的な瞳には情熱の炎が宿っている。
「…今は、俺の好きにさせて…」
ああ、そんなこと言われたらもう…許しちゃうじゃないか。両腕をいっぱいに伸ばし、返事の代わりに首の後ろに手を回した。
おかしいな、昨日もその前もたくさん開発されて気持ちよかったのに…。今日は1度も前立腺に触れられないまま、死ぬほど気持ち良くされた。
もしかすると、私は英護のことを………
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