えぴ22

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見慣れたはずの自宅のマンションが見えはじめた頃から数人はソワソワしていて、しっかり車の施錠をしてからエレベーターのボタンを押した時も英護は今どこにいるのだろう、と考えていた。 脳内ビジョンではマッチを売る少女のように凍えた手指を吐息で温め、扉前でうずくまる英護を想像して罪悪感が半端ない。 エレベーターが到着して真っ直ぐ自宅に向かおうとしたところで背後から軽く背中に触れられた。 「!?」 「あ、やっぱ安堂さんだ。お帰りなさい。」 なんて薄手のカーディガンで鼻の頭を赤く腫らしながら微笑みかけられると、やはり罪悪感で胸が痛い。全力ダッシュするつもりで血相を変えていた数人だが、階段の踊り場で健気に待ってくれていた英護に腰が折れるほど深く頭を下げた。 「遅れてすまない…!」 「んや、謝らないでくださいよ。まずは部屋行きましょ♪」 かなりの時間待たされたはずなのに、取り乱す数人を軽い態度で誘導する英護。背中をやんわり押される形で自室の鍵を開けた。なぜだか、いつもより嬉しそうな英護だった。 「約束を破ってすまない。」 部屋に入ると改めて謝罪する。英護も玄関に立ったまま、いやいやと顔の前で手を振る。 「珍しいなって思ったけど大方、授業が長引いたとかでしょ?安堂さんも仕事帰りに俺に会ってくれてるし、家に押し掛けてるのは俺なんスから気にしないで。」 「あ、ああそうだが…なぜ怒らないんだ?」 恐々と尋ねるが英護はキョトン、として首を傾げた。 「怒る?なんで?むしろ安堂さんにお帰りって言うの新鮮で、一緒に帰ってきたみたいでテンション上がってますけど♪」 「そうか、それならすぐ寝室に行くか?」 待たせたお礼に何か出来ることを出来る限り、と思って焦るが英護はゆっくり首を横に振る。 「安堂さん、落ち着いて。俺は何も怒ってませんから、お茶にしましょう?」 「あ、ああ…ああ、すぐ用意する。」 ようやく彼が怒ってないことを理解した数人は気を張っていた肩の力を抜いてキッチンへ向かった。
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