鬼が恋う

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 わたしたちは、それまで暮らしていた山を出た。ふたつ離れた先の山で見つけた、打ち捨てられた小屋を修復して住むことにした。黒羽は大工仕事も、畑づくりも、山菜の収穫も、なんでも器用にこなした。わたしの仕事がないくらいだった。 「黒羽、行きましょう」  満月の夜、わたしたちは散歩に出かける。黒羽は昼の間ずっと衣を被っているけれど、夜だけは素顔で歩く。 「いのり。ひとつ、舞ってくれますか」  さやけき月明かりの下で、わたしは黒羽のために舞った。天女のようと言われたわたしの舞を見て、黒羽は微笑んでくれた。  わたしたちは新月の夜、互いに顔を隠して歩くことからはじまった。  満月の夜にようやく本当の姿でめぐり逢い、いまは、お互い素顔でとなりを歩く。  つぎは、まぶしい陽の光のもとで、ともに歩こう。  黒羽がなんと言おうと、わたしたちは美しいのだから、なにも臆することはない。
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