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絡み付くように、火照りと湿り気を帯びた吐息が唇から漏れる。
かつて馬の手綱を握っていた手が、若君の解けた帯を握っている。
「はぁ…ん、あ」
白い手は緋色の帯を絡めたまま、十兵衛の腹筋の上で体を支える。俯く若君の黒い髪が垂衣のように揺れた。
前髪の奥から暗緑の瞳に熱と涙を滲ませて、上目遣いに十兵衛を見上げる。
「たすけて、じゅうべえ……♡」
口を開いても声が出ない。拳を振り上げたいのに、指一本動かない。
「じゅうべえ もう 堪えられない おれは」
開けられた襦袢が流水のように若君の身体の表を流れ床まで広がり、呼吸と共にゆっくりと肩が上下する。
腰に跨がる若君の身体そのものが、十兵衛の深い呼吸と共に波間の小舟のように揺れる。
「あっ んあっ♡」
柳眉をひそめ、胸を反らし、なんとも悩ましげな声を漏らす。その体つきは、武士にはほど遠い柔らかさで、火照った掌に撫でられるのはまるで敷き詰めたがまの穂に擽られるかのよう。
「やっぱり お、おきい……じゅうべえの」
お止め下され。誰か今すぐ儂の頭をかち割って、この夢を終わらせてくれ。
「おれは そなたが ほ、しい ぁ、あ♡ んはぁ――」
真珠のように艶めく頬に涙が伝う。目元や首筋や、太腿をはしたなく桃色に染めて踊る。
「たすけて この おれのはら、は……」
熱く、ぬめり、柔らかいものに包まれている。しかし根元に近いその壺のくちは、女のものよりもきつく吸い付いてくる。
それが雄に齎す快楽を思うと、其処はそのために有るとしか思えない程に十兵衛の脊髄をまるで炉から上げたばかりの玉鋼のように熱する。
「全部……みて? のう…おれの、じゅうべえ」
掠れた声で囁かれ、ゾクゾクッと背筋を寒気にも似た強い快楽が走る。此れが夢でなければ十兵衛は危うく吼えていた。
弓なりに反らされた若君の身体から衣が落ちて、薄闇に白く肢体が浮き上がる。
鎖骨はくぼみがはっきり見て取れるほど肉が薄いのに、肋には筋肉の名残のような柔らかそうな胸の淡い膨らみに影がかかり、二つ赤い粒が獣を誘うようにふっくりと膨らんでいる。
そこから、凹凸の無くなった腹筋が兎の腹のように伸びて、慎ましやかな臍の窪みからまた白くてまろい下腹へ続く。
「おなごの様だと……嗤ってかまわぬ、だが……おれは、もぉ、お゙ッ♡」
若君が身体をくねらせ、十兵衛の腰に尻を擦り付けようとするが、腰を落としきれないでいる。十兵衛の逸物は篤実の肉壺の中で狭い括れにつっかえていた。
「やだ、やだ ぁ あっ♡ じゅうべ♡ ほしい、もっとぉ」
とちゅっ♡ とちゅんっ♡ くぷっ♡ ぐぷっ♡
「はぁ あ あっ」
薄い腹が幾度も内側から叩かれて、歪な膨らみを帯びる。篤実はゆっくりと腹の中にその大きさを馴染ませるように、手で腹を撫でながら、石臼で粉を挽くかの如き動きでゆらゆらと揺れた。
「おれの……もう、ひとつ 奥♡」
だめだ、そんな。儂のような者を相手に。
「あ、う んあっ」
ぐぷっ♡
若君の腰がズンッと落ちた。
「あ あッ♡ ひ♡ ん あッ イく♡ 魔羅に負けて♡ またおんなのっ おっ お゙♡」
ドクドクっ♡ びゅうっ♡ びゅううううっ♡ びゅうっ♡
「んひっ♡ ひあっ♡ 熱い子種がぁ♡ はらの、なかで♡♡♡ 孕ませようと、して♡ これすき、これ これぇ♡」
若君の顔で、そのような言葉を吐くこの者は一体何者なのか。儂を誑かして何が楽しいというのか。水飴のように粘つく快楽に囚われながら、十兵衛は夢の篤実の中で果て続けた。
十兵衛は酷い罪悪感と共に目を覚ました。
目が覚めるなり己の股ぐらを改め、朝勃ちも夢精もしていないことを確かめる。
「…………良かった」
「んぅ……十兵衛、どうした……」
隣の若君に眠たそうな声で尋ねられ、十兵衛は咳払いし立ち上がる。
「いや、何でもねえ。朝だな……儂は今日、村の大工の所へ按摩の仕事に行ってくる」
そう告げると十兵衛は先に布団から出て、井戸から汲み上げた水で顔を洗った。しんと冷えて、頭が冴えてくると徐々に夢の中身も朧気になる。
庵に戻ると、篤実も起き上がり布団を片付けていた。
「若君、儂の仕事の間どうなさるつもりで」
「うむ。余はそなたが帰って来るのを待つ」
十兵衛は火を熾し、鍋の残りに米を加えて雑炊を作る。
「そうか。ああ、何か着物の他に必要な物は。刀とか……」
「……そなたが帰って来るのなら、それで良い。それに、此処は平和な村だ。刀は無用であろう」
鍋を火から下ろし、十兵衛は無意識の内に篤実の頭を撫でていた。
直後、ハッとして手を引っ込める。
「とんだ無礼をいたしました篤実様。一人前の男子に斯様な……」
「十兵衛」
「ハッ」
篤実は十兵衛の手を取ると、大きな彼の手を己の頬へと導いた。
「そなたには、余が一人前の……男子に見えるか」
「無論」
十兵衛は両手で篤実の顔を包み込み、その顔立ちを確かめるように耳元を撫で、両肩に手を置いた。
衣越しに感じ取る肩はかつて甲冑を身に纏い馬に跨がっていたとは信じがたい薄さと繊細な骨格であった。五年の間に、肺病でも患ったかのような様に十兵衛は眉をしかめた。
しかし、次の瞬間自ら十兵衛の胸の中へと滑り込んだ篤実の柔らかさに、ただ痩せただけでない事を思い逸らされる。
「そう、か。よかった」
何処か言い聞かせるように呟いて、篤実はそっと離れていった。
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