第一夜 平安の世に雪舞う

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「はっ⁉」  飛び起きた十兵衛の隣に、狸寝入りを続ける若君の気配があった。まだ朝日の温もりは感じられない。汗をかいた己の身体が、急速に冷えていくのを感じた。 「なん――ちゅう夢を……」  夢だ。夢に決まっている。今の十兵衛の世界には光がない。あんなものをこの目で拝める筈が無いのだ。 「溜まっているにしても…くそ」  ぐうぅ……と喉を鳴らし、耳を伏せて、十兵衛は恥じ入るあまり両手で顔を覆った。突き出した口吻からは溜め息が漏れる。 「はぁ……」  その上、十兵衛の股ぐらはずきずきと痛む程張り詰めていた。  十兵衛の雄のものは人の其れよりも長く、固く、爪牙の男の中でもからかわれるほどである。それが、褌どころか布団ごと押し上げているのだった。  十兵衛は床を抜け出し、そっと庵の表へと出て行った。  竹杖を手に、妻の墓とは逆の方へと進んでいく。  草鞋の裏に、日が経って固くなった雪の感触があった。この辺りは普段使わない為に、雪も多く残っている。杖の先で周囲を探り他に気配が無いことを確かめると、先程から猛る己の昂ぶりを褌から取り出した。 「く……」  既に十兵衛の雄は持て余すほどに熱く、触れなくともビンと跳ねるほど固く天を向いていた。己の雄のにおいに、周囲の雪のにおいが上塗りされる。 「篤実様に、あんな……くそっ」  ――そうだ。あの若君があんな振る舞いをするはずが無い。十兵衛が若君と寝食を共にしたのは、修練と戦を合わせても一年も無いが、誓って淫欲の対象として見たことは無かった。 「この、大馬鹿者が…はあっ…」  十兵衛の口は自分を罵るが、手は雄杭を掴み、脳裏には記憶から描き出される若君の姿が浮かぶ。  時折見た黒い御髪(おぐし)は長く、肌は白いが、刀を持ち馬上で声を上げる頬は紅潮し、土埃に塗れても艶めいていた。夜は黒く見える瞳は、強い光を受けたときに翡翠のように緑に輝くのだ。湯殿を共にしたことだってある。小さな背を流したが、細身とはいえ武士らしい男の背中であった。 「余は、そなたら爪牙の者と共に戦えることを誇らしく思う」  長引く戦の日々の中、敵陣を睨み付けながら呟いた篤実の言葉は、見目の全く異なる自分達を心の底から受け入れているのだと十兵衛の胸を打ったのだ。  五年振りにまみえたかつての主君が明らかに尋常で無い旅路を経たというのに、このような獣慾を抱く自身に掻き毟りたい程の恥と怒りをおぼえる。 「はあっ……くっ、うっ」  がしがしと乱暴に魔羅を扱いた。  手の中の肉棒が悪いのか、或いは十兵衛自身が本当は望んでいたのだろうか。  微かな風が十兵衛の所へ篤実のにおいを運んでくる。ただ美しいだけで無い、生々しい生き物の濃いにおい。  先端からひとりでに滲み出るぬめりを借りて、自らを責めるようにただ乱暴な動きで扱く。  ――「じゅうべえ」  夢の中で聞いた甘く舌足らずな声が頭の中で鐘の音のように繰り返し響く。 「わか……ぎみ」  風に靡いていたあの髪に触れたい。汗を拭った頭皮に鼻先を擦り付けたい。伸ばされた手首を捕らえ、肩に噛み付きたい。帯を解いた腰をガッシリと掴みそして、このいきり立つ男根を細腰に叩きつけたい。終いには今にも噴き出しそうな、粘つく子種を存分に浴びせて……。 「ぐるぁっ――!」  妻の事で耽ったことすら無かった。しかし十兵衛は、夢の中で見た若君の淫欲に堕落した姿にあてられ、久方ぶりに湧き上がる己の獣性を止められなかった。  股座(またぐら)の底がぎゅっと強ばり、太腿がぶるりと震える。どくどくどくっと何かが駆け上がってくる。 「あつみど…の」  息を詰めれば下腹にぐっと力が入り、十兵衛の雄はびくりびくりとひとりでに揺れる。手は先走りでぬちゃぬちゃと音を立て、それが若君の手だったらと邪な妄想が闇の中に浮かび上がる。 「ッ――あ……‼」  十兵衛の腰がブルリと震え、はくはくと開く鈴口から、糊のように濃い雄汁が飛び出した。  どぷっ ぶびゅっ! びゅるっ! びゅくびゅくびゅくっ‼ 「はあっ はっ!」  びゅううううっ! びゅるるるっ!  尿道を勢い良く駆け上がる、爪牙の子種は人間の比で無い量となる。十兵衛は背を丸め片手を男根に添えたまま声を押し殺し、止まらぬ白濁を雪の上にぼたぼたと散らした。  足元から、遠いところでは十兵衛の身長ほどの距離まで吹き上げる精液。地面に落ちれば冷たい雪を溶かし、また雪に冷やされて、十兵衛のにおいだけが辺りに満ちる。 「…――わか…ぎみ…」  これが、あの方の腹の――否、尻の奥だったならば。 「――十兵衛?」
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