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こいつ、性格最悪の男たらしなのにいいんですかって、新郎に言えなかったな。
カンカンッと勢いよく段差を降りて、会場があったビルを出ると、あちこちの照明が煌々と付いていて、真っ暗な空は見えない程だった。広がってガハガハと馬鹿笑いをする社会人や学生達。親密そうなカップル。
この人達、みんな幸せなのかな。
佳織は溜息を吐きながら、ヒールで疲れた足をコツン、コツンとわざと一歩ずつのっそり前へ出し、重たい引出物の紙袋を、もうここに置いて帰ってやろうかと、地面すれすれの所までだらんと下げた。そこへ、後ろから粕谷がふらふらと出て来たのが見えたので、佳織は粕谷を呼んだ。
「ねえ、粕谷ー」
「おん?」
返事をする粕谷は、ショートパンツの女のお尻を見ている。
「なんかさー、すっごいジャンキーなもの食べたい」
右足を出したら紙袋を地面にすれさせて、左足を出したら離すという、やる気のない振り子人形のように歩きながら、粕谷に背中を向けたまま、佳織は言った。
「あーなんかわかる。二次会まで出て、なんか疲れたしな」
佳織はくるりと粕谷を向いて、じっと見つめた。粕谷はスーツで、少しお酒で顔を赤らめているけれど、高校時代の面影そのままだった。
「じゃあ、ラーメンでも食べに行こうよ」
粕谷はすぐに、「いいよ」と答えた。
佳織はこの賑わいを見渡し、ここじゃなくもっと静かな、隠れ家のような場所がいいなと思った。
すると粕谷が、「あ。双葉台に戻れば、小さいラーメン屋あるけど」と提案した。佳織は「あー」と宙を見て、「金竜軒だっけ」と言った。
「そう。そっちなら静かだよ」
「いいね」
佳織と粕谷は、歩く速度を取り戻し、地元へ戻るべく駅へと向かった。
「どうなってんの、その頭」
お呼ばれ用の編み込みアップにセットされた髪型をじろじろと観察して、粕谷は唸った。
「ね。どうなってんだろうね」
佳織は、ハードスプレーで固められたこの頭を、かぽっと外したい気分で、また溜息を吐いた。
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