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静かな夜だった。
昼間の喧騒がまるで嘘みたいに。
村の中央広場には、賑わいを見せていた屋台や音楽隊のステージなどは既に片付けられ、あちこちに飾られたたくさんの花だけが祭りの余韻を少しばかり感じさせる。
一年に一度、この村では死者を偲ぶ祭りが行われる。
死者を偲ぶと言っても、嘆き悲しむようなものはなく、感謝や祈り、崇め奉る気持ちで溢れていた。明るく活気があり、それでいて神聖さもある、歴史と伝統のある祭りだった。
ふぅと、ワットは小さくため息をつく。
この村に来たのは、何年ぶりだろう。
ここは、あいつが死んだ村だ。村を守ってあっけなく死んでいった。
村人は皆、あいつのことを英雄と言うが、俺からしてみれば英雄なんかじゃなく、ただの大バカ者だ。
俺たちは旅人だった。お互い旅の途中で出会って、気付けば苦楽を共にするようになっていた。一人では行けない場所でも、二人だったら乗り越えられた。本当にたくさんの旅をした。それは、真っ白な地図を隅から隅まで埋めるような旅だった。
この村に立ち寄った時も、まだまだ続く旅の通過点だと思っていた。村人の陽気なもてなしと美味い地酒はえらく気に入ったが、それが村のために命を賭す理由になるはずがない。だが実際に、あいつは村を救い、死んだ。
俺たち二人の旅は、こうして終わったのだ。
昼間の祭りでは、多くの村人があいつの美談に花を咲かせていた。勇敢だとか、最強だとか、はたまた神だとか。そんなことない。あいつは己の能力を過信した、ただの無謀な男だ。そう訴えても、誰も聞き入れてはくれなかった。
村人のように明るい気持ちにもなれず、物陰からひっそりと祭りを眺めていた。
いつしか辺りは暗くなり、俺は広場で一人、村の英雄を象徴する大きな石碑の前に立ちすくむ。
あいつを亡くした心の傷は、時間とともに癒えるどころか益々深いものになっている。
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