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帰って来いよ。一夜でもいいから。
村の言い伝えが本当なら、今ごろあいつとまた世界の果てで、想像も絶するような冒険をしているんだろうか。
この祭りで祈りを捧げられた魂は、その夜の間だけこの世に帰ってくることができるらしい。
気休めにもならない作り話に、胸が締め付けられる。
早くここを去ってしまおう。
祈りを終えたワットはゆっくりと目を開ける。
すると月が、なにかを照らしていた。それは、死んだはずのあいつ――ローイだった。
そんな、まさか……
「――おいおいワット。どこ行ってたんだよ」
目が合うやいなや、呆れたようにローイが笑う。
信じられないが、信じるしかなかった。目の前にいるローイは、俺が知っているローイそのものだ。笑い方も、声も、すぐ人のせいにするような口ぶりも。
「……その言葉、そっくりそのまま返すよ」
突然の邂逅に、本当は嬉しさで胸が爆発しそうな勢いだった。だが、ローイの最期を思い出せば軽口を叩いてしまうのも無理はないだろう。
その最期とは、この村を救うのだと言って噴火寸前のボルケーノに突っ走っていく姿だった。奇跡的に噴火の被害は最小限にとどまったものの、最前線にいたローイは溶岩に巻き込まれてしまった。
英雄だかなんだか知らないが、俺を置いて死ぬなんて許されたことではない。
ローイの名が刻まれた石碑には、手向けられた色とりどりの花で溢れている。俺はそれをギロリと睨んだ。
「あはは。まぁ、これでおあいこって事にしてやるよ」
「なんだそれ。俺に落ち度はないだろ」
「時間がない、早く行こう!」
そう言ってローイが村の外れの森に向かって指笛を吹くと、バタバタと翼を上下させながら鳥のような生き物がこちらへ飛んでくるのが見えた。
いや、鳥じゃない。
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