一夜の旅を、いつまでも君と

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 途中、海底洞窟を散策していると、古代の地底人が描いたであろう壁画を見つけた。すると突然インスピレーションが降りてきたと、ローイがその壁に俺の似顔絵を描き始め、「できた!」と誇らしそうに見せてきたと思えば、そのあまりの滑稽さに俺は笑い転げた。 「地底人と俺との、時代を超越した奇跡の合作だというのに……」 「地底人の傑作を台無しにしただけだろうが。何言ってやがる」  笑いすぎて腹が痛い。  立ち上がるのさえも一苦労だ。 「本当にこの絵の良さがわかんねぇのか? ワットには芸術の素養がないんだな」 「はぁ? 俺にだって絵の上手い下手くらいはわかる。お前は下手だ」 「だから上手い下手じゃねぇんだよ、芸術ってのは。前にアートの都で教わったろ?」 「それとは次元が違うだろ。お前のはただの下手くそだ」 「いいや、これは芸術だ!」 「黙れ下手くそ!」 「やんのか?」 「上等だ」  お互い一歩も譲らなかったので、喧嘩で決着をつけることになった。  今までも、話し合いで納得いかない時の最終手段は、力ずくの喧嘩だった。しかし今の俺たちには時間がない。喧嘩で毎回お互い怪我を負い、双方が回復するまで旅が中断されてしまうことは、痛いほどわかっている。喧嘩なんてバカバカしい。だが、どうしてもプライドが許さない。  そこで俺たちは技術先進国に行き、バーチャル空間で心置きなくデスマッチを繰り広げることにした。  最初は単純な肉弾戦だったが、アドベンチャーゲームが舞台のこのバーチャル空間では、いつしか地形やアイテム、個々の能力を応用した大規模な頭脳戦に発展していた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加