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来年も、その翌年も、たった一瞬とも言える一夜しか会うことができない。
いや、本来会えないはずの死人に毎年一夜でも会うことが叶うのだと考えるべきか。
一夜しか会えない。一夜でも会える。
頭の中はそればかりで、どう受け止めたらいいかわからず、いつもの軽口も出てこなかった。しかしローイはというと、あくびをしながら石碑の前に寝転がっている。
「……ワット、なんでそんな険しい顔してんだ?」
どこまでもデリカシーのない奴だ。
触れられるうちに握手でもしておこうかと、俺は右手を伸ばした。すると、腕の輪郭がぼやけているのに気付く。よく見れば、自分の全身がローイと同じように透け始めていた。
その瞬間、俺は全てを思い出した。
村を救った英雄を後世に伝えるための石碑。それは、所々風化しており、欠けた部分は何度も修復された跡があった。
文字も、古いものの上から新しく彫り直されている。そして、手向けられた花で隠れていたが、よく見るとローイの他にもう一人の名前が刻まれている。
花をのけると、ローイという文字の横に連なる名前――
ワット
俺の名前だ。
『ワット、俺はこれから噴火を止めに行く。この村の人たちには恩があるんだ』
『そう言うと思ったよ、ローイ。村人に恩があるのは俺も同じだ。お前に協力するよ』
ローイは、一人でボルケーノに突っ走って行ったんじゃない。俺も一緒だった。
俺の力は、他者の力を最大限に増幅させるものだ。自分一人じゃ何にも役に立たないが、ローイの力と相性が良く、俺たちは二人でいればどんな過酷な旅も乗り越えられてきた。
だから、絶対に噴火を止められる。そう確信して、共にボルケーノに向かったのだ。
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