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三人称
《ガワチャアアアアン!》
交差点でバイクが転倒した。
信号無視の歩行者を避けるため、運転手が急ハンドルを切ったのだ。
乗っていたアベックは宙に放り出された。そして、嫌というほど地面を転がる。
ヘルメットのあごひもを両者付けていなかったため、二人ともメットが飛んだ。
後ろに乗っていた若い女は激しく何度も頭をアスファルトに打ちつけた。
一瞬の惨事。
女は頭から流血し、ぴくりとも動かない。
二人は伊豆旅行の帰りだった。恋人同士だった。夏休みを利用し、白浜海岸まで海水浴を楽しむため出かけた。民宿に二泊し、そして、東京へ戻る途中での事故だった。
「う、うううーーあ、秋子」
男は倒れながらも女に呼びかける。
しかし、女からの返事はなかった。
女は意識不明だった。
男はうめきながら震える手を伸ばす。男も大腿骨骨折の大怪我を負っていた。
女は短パン姿だった。
白く輝く生足がなまめしかった。
その足で、幾多の男性の視線を集めただろう。
男は女の太ももを愛していたにちがいない。
彼女の綺麗な足を友人たちに自慢していたことだろう。そして、羨望されたことだろう。
男は女の生足をさすり、なで回したのだろうか。まったく、羨ましい話だ。
嫌になるほど綺麗な生足で
「おい」
男がひと声発した。振り絞った声音。
「お、おまえのせいでコケたんだ。きゅ、救急車呼んでくれ」
男はそうわめいた。だが、望みは叶わない。そんな面倒な願いは誰も聞き入れない。
そんなことより、まったく、生足はごくり唾を飲むほど妖艶で、機会があったら誰もがぜひ一度触ってみたくなるほどのすばらしくも美しい足だった。
カモシカのような、美麗。艶麗。優美。
どんな賛嘆の言葉も惜しくない美脚で
「おい!おっさん!ぶつぶつ言ってないで、すぐに救急車呼んでくれって言ってんだよ!」
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