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3.神様TV
ADがキューを出すと、「緊急特番!『どう生きる?人生100年時代とDX』」というゴシック調の文字が、MCの背後の大型モニターに映し出された。
照明が一段明るさを増す。MCの横に一人、白装束の男性が気難しい顔でカメラを睨んでいる。
「さて、本日のコメンテンターは、ツクヨミさんです。ツクヨミさん、よろしくお願いします」
「よろしく」
緊張のせいか、1オクターブ高い声をマイクが拾う。MCから、タイトルについてのコメントを求めれたツクヨミが、ずいっと身を乗り出すと、カメラがアップでとらえた。
「結論から言わせていただくと、人生100年時代とDXは両立しませんな。ただ長生きしているだけの老人たち抱えたままで、生産性上げるのなんて不可能でしょ。人生50年定年制を敢行して、姥捨て山という、まったく別の経済圏を確立、そこにバンバン捨てていきましょう。SDGsも念頭において、いっそのこと、人間も臓器提供というリサイクル活動に参加するようにしたら、ちょっとは生産性向上に役立つんじゃないですかね。
日本は諸外国に比べて、生産性が低いとかって気にしてますけど、労働人口を50歳以下に集約して、更に知能でふるいにかけてAIと共生させれば、あっという間に上がりますよ。
そういった意味では、DX。誰も置き去りにしないとかぬかしてるSDGsとは相容れないものでしょ。
もう、割り切ってね、ついてこれない連中も、姥捨て山行き。資本主義選択した時点で、人間がオワコンになるのは分かってた訳でね。
何を今更って感じですな」
番組プロデューサーは、ここで自分の過ちに気付く。スタジオには、視聴者の生の声も取り入れようと、電話オペレーターが20人ほど配置されていたが、すでに阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。ごめんんさい、申し訳ありません、という悲痛な声ばかりが虚しくスタジオに響くばかりであった。
まだ何か言おうとするツクヨミを、警備員が引き摺るように番組セットから連れ出した映像の後、「しばらくお待ちください」のメッセージがTV画面に映し出された。
パニック状態に陥っているスタジオそっちのけで、ツクヨミは手元の台本に〝X”の文字をいくつも書き並べていた。
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