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なんとソイツはTシャツにトランクスという出で立ちで、下は素足。そして、遠慮がちにサッシを叩く姿は凶悪犯や変質者というより ただの困っている人。だけど、ここはマンションの3階。こんなところからの来訪は尋常ではないので、俺はスマホを鷲掴んで警察に連絡しようとしたのだが、よくよく見ると どこかで見たような顔をしていて……
「もしかして…… 清原さんじゃないですか!」
何と! 男は隣のご主人。たまに廊下ですれ違う時はスーツ姿だったりお洒落な普段着だったりするので、このラフ過ぎる格好とボサボサの頭のせいで全く気づかなかった。
俺は慌てて駆け寄ると、鍵を開けて彼を招き入れる。そして、どうしてこんな所にいるのか尋ねたら……
「猫に閉め出されたんです」
「はい?」
「長風呂で湯当たりしたんでベランダで涼みながらビールを飲んでいたら、猫が誤って鍵を締めちゃったみたいで……」
「そんなことってあるんですか?」
「飛び上がった時に当たったようです。生憎、妻は明日まで帰って来ないし、スマホも部屋の中にあるんで、申し訳ないと思ったんですがベランダの壁を伝って前田さんのお宅に助けを求めにきました」
「壁って! よくも そんな命懸けなことを」
「そうするしかないと思って。でも、家にいらして良かった。本当に助かりました」
「いえいえ、自分は何にもしてません」
「すみませんけど、部屋を横切って家に戻ってもいいですか?」
「どうぞ、遠慮なく。でも、清原さんちの玄関、開いてますかね?」
「五分五分でしょうか。もし、閉まっていたら管理会社に連絡します。その時は電話を貸してもらえますか?」
そう言って恐縮しながら上目遣いでこちらを見つめるさまに、彼に対する印象がガラリと変わった。
――― 整い過ぎた顔立ちで近寄りがたかったけれど、結構間が抜けていて、こんな可愛い表情もするんだな
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