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「良かったですね!」
「いつも鍵をかけ忘れて叱られるんですけど、それが幸いしました」
「悪さしたネコちゃんは?」
「どっかに隠れてますね」
無事、生還を果たした彼を祝福した後、俺は自分の家に戻ろうとしたのだが「ちょっと待ってください」と引き留められる。そして、彼が【サンふじ】と印字された段ボールから林檎を紙袋に詰めている間(たぶん、お礼なんだろう)、失礼ながら部屋の様子を覗き見して彼らの暮らしぶりを伺ったのだが、リビングで野球中継を映しているテレビが視界に入って『やべぇ』と思った。
――― もう始まってるじゃん
賑やかなオープニング画面に目を奪われている俺に、紙袋を抱えて戻って来た彼が一言。
「野球、好きなんですか?」
「ええ。ちょうどおんなじ番組を見てました」
「どっちを応援してるんです?」
「○○○。生まれも育ちもH県人で、ファン歴三十年の筋金入りです」
「すみません。僕、対戦相手のファンなんです」
それを聞いた俺の眉がピクリと動く。
「ウチの元主砲が移籍して『今年こそは!』って気合が入っているでしょう?」
「○○○さんの強力打線は彼が抜けたくらいじゃビクともせんでしょう? 今年の優勝も安泰なんじゃないですか?」
「そちらは監督もコーチ陣も一新して絶好調ですね。まっ、お手柔らかにお願いしますよ」
「いやいや、こちらこそ」
静かな攻防を終えた後、俺の頭に妙案が浮かんだ。
「今日は奥さん、いらっしゃらないんですよね。実はウチのかみさんも里帰り中でして、良かったら一緒に観戦なんてどうです? ビールはたくさん買ってあるし、もう少ししたらピザも届くし」
「いいんですか? そういや僕の妻、おでんを山のように作って行ったんですよ。一人じゃ食べきれないから丁度良かった」
野球好きという共通点で意気投合した俺らは、その10分後にはテレビの前に座って観戦をしていた。
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