奥さんにはナイショ!

7/11
前へ
/11ページ
次へ
「そりゃそうだ。奥さんが自分の趣味を満喫しているなら清原さんもそうすべきですよ。でもまあ、奥さんも『子どもが生まれるまで』と、考えてらっしゃるんだと思いますけど」  すると、清原さんが遠くを見つめる目をして 「恐らく、僕らの間に子どもは生まれません。だって、やってませんもん」 「えっ?」と固まる俺。まさか、お隣のセックス事情まで聞かされるとは思わなかったので、何と答えていいのか分からず口籠っていたら 「すみません。前田さんに愚痴なんか零しちゃって。迷惑だったでしょう?」 「迷惑というか……」 「聞き流してください。でも、誰にも言えなかったことを吐き出せてスッキリしました。あ…… 試合の方、どっちも0点のまま4回裏終わっちゃいましたね」  そう言われて画面に目を移すと、応援しているチームが満塁のチャンスを生かせず無得点。そのままコマーシャルへと移っていた。  まあ、彼の悩みも分からなくもないけど――― と、自分の身と照らし合わせる俺。  俺んとこだって、妊娠が分かって以降、そっちの方はご無沙汰だ。ネットでググったら、妊娠中のセックスは女性の体調を考慮しながらすればOKということだったのに、つわりや腹の張りや流産・早産を心配して、ここ半年は体に触れさせてもらえない。『じゃあ、俺のを慰めてよ』と頼んでみたけれど、女性ホルモンの影響か冷たくあしらわれ、溜まってきたら風呂場かトイレで出すという日々を送っている。  お互い欲求不満同士、難儀なこった――― と苦笑いをしていた時である。缶ビールを2本飲み干し、酎ハイのプルタブを開けた清原さんが ある提案をしてきた。 「ねえ、前田さん。このまま観てるだけじゃ つまんないから賭けしません?」 「賭け? 何を?」 「どっちのチームが試合を制するか。勝った方は、そうだな…… 相手の言うことを何でも聞くとか」 「なんだか怖いな」 「例えば、奥さんを一日交換する…… な~んちゃって」 「それOK。ウチの嫁さん、きっと喜ぶ」 「赤信号を走り抜けるとか」 「命を張るのは止めましょう。あと、お金関係もナシね。俺、バイクのメンテで今スッカラカンなんで」 「相手を恨まず、頑張れば何とかなる程度のもので」 「これからもお付き合いしていくことですしね」  以後、俺は試合の経過を気にしつつ、彼とかわした賭けにワクワクした。 ――― さあて、彼にどんなことをさせようか。そうだ、『今度、一緒に飲みに行く』ってのはどうだろう? 今日だってこんなに意気投合したんだから きっと楽しいはず。でも、これって賭けに勝ってすることじゃないよな。じゃあ、他に何がある? 肩もみ? 車の洗車? 相手が女性なら【ほっぺにチュー♡】なんてのもあるけど…… 等々、顔をニヤつかせながら考えたけれど、酒が入っているせいか妙案が浮かばない。そうしているあいだに、試合は膠着状態のまま白熱した投手戦を繰り広げ、そのまま延長戦に もつれ込んだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加