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テーブルの上にはビールと酎ハイとハイボールの空き缶が無数に転がり、今は清原さんの実家近くの蔵元で作られた日本酒をチビチビやっている。
明日が休みなのをいいことに、俺らは食べては飲み、飲んでは食べて、最後は雑魚寝でもしようかといった雰囲気の中、清原さんが唸った。
「もしかしたら、このまま引き分けになるかも。そうなったら、両チームの健闘を称えて双方の言うことを聞き合う…… ってのはどうでしょう?」
「いいですよ~」と軽く受け流したところ、三十分後に それが現実となった。
ベンチから引きあげる選手らを酔った頭で眺めていたら、清原さんが「ジャンケンしましょう」と提案してきた。
「どっちが先にするか決めるんです」
そして、向き合うと「最初はグー。ジャンケン、ぽん!」
勝敗は一発で決まった。右手のパーを唖然と見つめる清原さんと、チョキを高々と掲げて「よっしゃ~~」と雄叫びを上げる俺。だけど、してもらいたいことなんて まだ決めていなかった、
迷惑にならず、負担もかけないことって何があるんだ? と、清原さんの顔を眺めて考えていたら、いつの間にか その造形美に釘付けになっていた。
睫毛は爪楊枝が乗るくらい長いし、唇はマシュマロみたいだし、ほっぺたなんか まるで桃。妻が彼のイケメンぷりにメロメロになるのも頷ける――― と、納得していたその時、妙案が浮かんだ。
「そうだ、写真! 写真を撮ってくれませんか?」
「写真ですか?」と、目を見開く清原さん。
「はい、仲良くツーショット。それでお願いします」
俺は心の中で ほくそ笑んでいた。そう、これは妻への意趣返し。つわりで一ヶ月、出産前後の八ヶ月、俺を放ったらかしにする妻へ『君が不在のあいだ、隣のご主人と こ~んなに仲良くなったんだぜ!』と、写真を送って羨ましがらせようと画策したのだ。
「でも、どうして僕なんかと?」
「お近づきの印に」
「しるし……」
「ダメですか?」
「駄目っていうか、ちょっと恥ずかしいな」
「凄く楽しかったんです。清原さんとお酒を飲みながら野球を観て、話をしたことが。だから、記念に一枚残しておきたいんですよ」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」そう言って、更に頬を赤くした清原さんの反応がウブ過ぎて、抱き締めたくなるほど可愛いと思う俺だった。
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