第3話_サンチェス博士

1/4
前へ
/111ページ
次へ

第3話_サンチェス博士

ミヤジマ技研から送り出されてすぐに首相官邸へ向かい、国内要人らへの顔合わせを済ませたソウヤは、王宮へ向かう手筈が整うまで、官邸内に与えられた控室で待機することとなった。 武装した公安警察と警備ロボットらに囲われ、居心地の悪さを感じながら控室まで歩き、入口手前でようやく追随してきた者たちが捌けていく。 「ここで待て」 公安のひとりにそう指示され、彼らの後ろ姿を見送りつつ入室する。 「よぉ、お疲れさん」 すると、誰もいないはずの室内から呼び掛けられ、よく聞き覚えのあるその声に、前へ振り向き目を見張った。 「…博士!」 「座るもんくらい用意しとけってな。礼儀のなってねぇ奴らだよ」 控室で待っていたミヤジマ博士はニッと笑顔を向けた。 「先に向かわれてたのではなかったのですか?」 「質問が面倒臭ぇから顔合わせはブッチしただけだ、王宮までは一緒に行くぜ。…何が悲しくて素人連中の前で、大事な機密情報をひけらかさなきゃならねぇんだっつの」 たて続けに苦々しく悪態を吐くと、博士はころっと表情を変え、ソウヤの肩を抱く。 「独りにして悪かったな。寂しくなかったか?」 「…ちょっとだけ」 「じぃさんたちに色目使われなかったか?」 「いえ、そのようなことは…」 「俺だけのものだった可愛いお前を、汚ねぇ衆目に晒すことになるとはな…自分(てめぇ)で決めたこととは言え、胸糞悪ぃぜ。これが娘を嫁に出す親父の気持ちかね」 「俺は女性型じゃありませんっ…、んぅっ」 言葉を返しかけるソウヤの口を塞ぎ、博士は彼の腰を抱き寄せる。 そのままジャケットをたくし上げ、中へ手を入れようとする博士から逃れるように、ソウヤは身をよじった。 「っ博士…、っあっ、いけませんっ…」 「いいじゃねぇかちょっとくらい。これからはお前の身体を、好きな時に好きなだけ楽しめなくなっちまうんだぞ?」 「あぁっ…! っ公共の場では…おやめ下さいっ…!」 「気にすんなって。誰も見てやしねぇよ」 「この後すぐ王宮に入るんですから、服が乱れては…」 「――随分と仲が宜しいのね」 ソウヤが覆い被さろうとする博士を腕で退けようとした時、入口の方から甲高い靴音と人の声が届く。 気付いたソウヤは慌てて博士から離れて身なりを整え、一歩下がる。 「…おお、カルラ。久しいじゃん」 「官邸のどこかにいると思ってたわ。顔合わせに欠席なんて、大それたことをやってのけたわね」 「俺のことをよく知るお前なら想定内だったろ?」 「実際にやる・やらないは別問題よ」 控室へ入ってきた白衣の女性へ博士が笑みをつくり、親しげに言葉を交わすのを見、ソウヤは身を縮めながらも彼の横顔を恨めしげに見上げる。 そんなソウヤへ、女性は一瞥をくれた。 「…安心なさいな、坊や。私とミヤジマとはビジネス以外何の関係も無いわ」 「!」 「男は嫌いなの」 目をぱちくりさせるソウヤへそう緩慢な調子で告げ、一歩進み寄って手を差し出す。 「カルラ・サンチェス。あなたの創造主と同業――アンドロイド開発技術者よ」
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加