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「なにか、辛いことでも思い出したか?」
「……どうして、でしょうか?」
「いや、少し悲しそうな表情をしていた」
彼にそう言われて、雛子はきょとんとしてしまう。今、自分はそこまで悲しそうな表情をしていないはずだ。
そもそも、まだうまく表情は機能しないはずで……。
「勘違いなら、別にいいんだ。ただ、あなたを観察しているうちに、ちょっとした変化ならば、わかるようになった」
が、それはかなり恥ずかしい。
変化をわかってもらえるのはいいことかもしれない。でも、悟られたくない変化もあるわけで……。
「その、あまり、観察しないでください……」
控えめにそう言うので精いっぱいだった。
ちょっと刺々しい言い方だったかもしれない。後からそう思い、雛子が視線を彷徨わせていれば、「それもそうか」という言葉が聞こえてくる。視線を彼に向ける。少し、いたたまれない表情をしているのは気のせいじゃないはずだ。
「確かに、女性をまじまじと観察するのはいいことじゃないな。夫からだったとしても、いろいろと不快だろう」
彼が苦しそうにそう言うため、雛子は慌てて首をぶんぶんと横に振る。
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