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帝国へ(フィアット家)10
「何で、フィアット子爵家にいるのよ!?」
案内された客間の扉をババンと開けると、寛ぐフィーとカレンが慌てて立ち上がった。
「私言ったよね!ここじゃない場所がいい、と!!」
思い出すだけで、許せない!
ガルマ様が私利私欲の為に動いたせいで、2人は連れさられた。
もし、あの時助けてくれたら、
と、考える事はしない。それは、現実逃避となる。
でも、あの顔を見る度に、もし、と思ってしまうこの苛立ちはどうしょうもない。
だ・か・ら!
どうしても繋がるフィアット子爵家を去りたかったのよ!
だから、帰りの道中ターニャがとてもオドオドしていたんだ。
勿論、フィアット子爵家は悪くないし、何も知らずに親身になって接遇してくれる態度はとても過ごしやすかった。
でもね、
精神的に辛く、その上、往復馬に乗り疲労困憊の今の私にこの結果は、
「喧嘩売ってんの!?」
あまりに腹が立ち、持っていた手袋を床に投げつけ、フィーとカレン、ザンを睨みつけた。
一気に部屋の空気が凍りつき、誰もが固まり言葉を失った。
「こ、これには理由があるのよ。ま、まあ聞いてよ。ね、スティング。スティングに、損になんないよ」
カレンが声を震わせながら慌てて近づいてきた。
「そ、そうだよ、スティング。俺も、今回はカレンに賛同する」
「私もです!」
フィー、カレン、ザンが、必死の顔で私な周りに集まってきた。
「とりあえず、皆様の話しを聞いてみましょう。ね、とりあえず、その、お茶でも飲みましょ!お疲れですもの、ね!」
ターニャは私の両肩に手を置き、揉みだし、媚びを売るくせに、振り向くと、さっ、と急いでそっぽを向いた。
「ね、スティング、お腹空いたでしょう?私達もまだだから一緒に食べようよ」
「な、スティング、そうしようぜ何か食べないと身体に悪いからさ」
フィーとカレンが甘えるように言ってくるから、私は大きなため息をつき、仕方なくふたりを見た。
ふたりは私の表情を見て、安堵した顔見せると、手を引っ張りソファに連れていった。
すかさずザンが部屋出ていき、ターニャがお茶の準備をしてくれた。
座るとどっと疲れが出てきた。
「あのね、スティング、分かるよ。ムカついてるのはね。でもね、あのムカつく宰相がさあ、どうしても許してくれって土下座してきてね、その上、スティングの為に何でもする、と国を動かしてもやる、と言ってきてたのよ。国だよ国」
私の左に座るカレンが私の顔を色を伺うにように言った。
「俺としては、そんな事よりも馬車を助けて欲しかった、と腹が立ったが、結果をどうこう言っても仕方ないと思ったんだ。それなら、この先スティングにとって何か役に立つんじゃないか、と思った」
前に座るフィーの噛み締める言葉に、重たく頷いた。
「それは、私も同じ事を考えだわ。どう足掻いても今の結果は変わらない」
「お茶をどうぞ」
「ありがとう。スティング飲もうよ。それでね、あいつスティングの為に王に何か頼むと言ってた。一国が動くかもしれないよ」
うーん。
確かに、それは欲しいかも。結局ガルマ様は想定外の登場人物で、手を出した訳ではないから、結果は変わらない。
ある意味あの方も私に巻き込まれた1人かもしれない。いや、勝手に巻き込まれてくれているんだわ。
それに、まさかここまでフィーとカレンが私の為に動くとは思っていなかっただろう。
その上、スレッガー殿下の事までもフィーとカレンは知ってしまった。
些細な事だったはずが、既に後戻り出来なくなり、その代償は計り知れない。
「そうね、保険として持っておくのはいいわね。最悪、王妃様に勝てなかったとしたら、他国が関われば私達を下手に扱えないでしょうから、諦めず次の機会を作ることが出来るわね」
お茶を1口飲むと、身体中が一気に重みを感じた。
疲れた。
瞼が重たくなり、カレンやフィーが何か話をしているが、あまり聞き取れなかった。
少しして、フィアット子爵家の召使い達が軽食を運んで来てくれた。
とても疲れていて正直食欲は無かったが、皆があまりに心配するから少し食べた。
「それと、国境を任されていた者は、私の手駒だったわ。幾つかの文を預かってきたの。また、読んではいないけど、レインが貴族である可能性が強くなったわ」
骨付きチキンを少しづつ食べながら、言うと、皆が表情が固まり、私を凝視し何か言おうと口を開けたが、首を振り、手でとめた。
「読んでからまた言うわ。色々考えたいの。少し、疲れたわ。休みたいわ」
1度疲労を感じると、頭が働かなくなる。
「そうしろ。ザン、誰か呼んできてくれ」
「はい」
直ぐに、フィアット子爵様の召使い達がやってきて、私を部屋に案内してくれた。
ガルマ様が何をしようとしていたかは、フィアット子爵様には何も言っていたなかったようで、私がこの屋敷を出る!と言った言葉に、もてなしが気に入らなかったのだ、と恐怖していたようで更に気を使った態度になり、申し訳無かった。
でも、フィアット子爵様にとってはよく分からない大騒ぎがあったものの、フィーとカレンが私を屋敷で待つ、と決めたのにとても安堵したようだ。
気持ちはわかる。
皇子と皇女が関わっているから、最悪お家潰し、という事だって有り得るもの。上級貴族ならともかく、下級貴族は、吹いたら飛んでいきそうな程儚い立場の人達が数多くいる。
また、ガルマ様からもし皆様が残るようなら、幾ら金がかかってもいいから誠心誠意を込めてもてなしをしなさい、と必死に、しつこく、言われたらしい。
フィアット子爵様は、何故そこまでガルマ様が言うのか不思議だと、首を傾げていた。
何だかフィアット子爵家に申し訳なく思う。
ガルマ様が本当に、予定外すぎる動きをするから、この家も巻き込んでしまった。でも、全てが落ち着いた時、またご厄介になり、ゆっくりと色んな所を案内してもらうのも悪くないな、と思った。
ベッドで目を閉じると、クルリとリューナイトの顔が急に浮かび、頭が冴えてきてしまった。
身体は休息を求めている。
全身がだるくて、むくんでいて、重たいから無理に目を閉じると、2人の顔や声が浮かび、結局目を閉じるのをやめた。
起き上がり水を飲み、寝室を出た。
小さい明かりをつけ、ソファに座ると今度は、私をいつも心配そうに見るフィーの顔が浮かんだ。
そういえば私ってばいつもフィーに心配されてるな。
殿下を好きな時は、殿下から酷いこと言われないか、心配され、
今は私が危ないことばかりしてるから、心配され、
私のせいで、フィーがゆっくり出来る時間が無いかもしれないな。
殿下を想っていた時とは、全く違う穏やかな気持ちになった。
もう一度ベッドに入ろう。寝れなくても、横になれば少しは疲れが取れるわ。
そうじゃないと、フィーにまた心配させてしまうわね。
もう一度と寝室に戻り横になったが、今度は文の内容が気になった。
結局文を取りに行き、ベッドで開け、読んだ。
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