帝国へ(三通の文)11

1/1
前へ
/130ページ
次へ

帝国へ(三通の文)11

起きるともうお昼前だった。 文を読み、色々考えてしまい明け方まで起きていた。メイド達が様子を見に来た音で、仕方なく目を閉じ、いつの間にか寝てしまったようだ。 「お目覚めですか、公爵令嬢」 様子に見に来たメイドが、声をかけてくれた。 「皆様お待ちですよ、起きれますか?」 「ええ」 「では、準備いたしましょう」 「そうね」 うーんと背伸びをし、その腕を戻しながら、文を奥へと隠した。 用意をしてもらい、それから皆で昼食を食べ、予定通り帝国へと向かった。 フィアット子爵様に丁寧にお礼を言うと、色々なお土産を下さった。 オレンジ、綺麗な石ころ、御守り、なんだか分からない絵や、花、そのほか色々。 フィアット子爵様が恥ずかしそうに、領民達が御3人に、と持ってきてくれたとの事。 滅多に見ない帝国の旗や、帝国騎士団、その上、皇太子に皇女、隣国だが、公爵令嬢、と、物珍しい方々がやってきたと大騒ぎだったようだ。 「ありがとうございます。正直、この場所はあまりいい思い出として残らないと思っていました」 私の言葉にフィアット子爵様は、馬車が襲われたのを報告を受けていたので酷く落ち込んだが、私の次の言葉に、微笑んでくれた。 「でも、その悲しみを埋める程に、領民とフィアット子爵様の御家族の優しさに触れました。頂いた品物は、色んな意味で一生の宝物になりました。次は個人の旅で、是非寄らせて頂きます。その時は、観光案内をお願い致しますね。また、我が国に来る事があれば、是非ヴェンツェル公爵家を訪ねて下さい。今度は私がもてなしをさせて頂きます。良き出会いが出来、心から嬉しく思っております」 「領民には、そのお言葉、そのまま伝えます。とても喜びます」 屋敷を離れる時、名残惜しんでくれるフィアット子爵家の皆様、そして領民達が馬車に乗る前も、乗ってからも、ずっと手を振ってくれた。 その中、私も窓が乗り出し手を振り続け、姿が見えるまでそうし続けた。 「ほら、フィアット子爵家で良かったでしょ?」 私の機嫌見るように、隣に座るカレンが聞いてきた。 何時ものように前にフィーが座り、その隣にターニャが座る。ザンは先頭を走り騎士団を先導している。 「フィアット子爵様がとても良くして下さったのは認めるわ。本当に、落ち着いたらまた来たいわね」 窓を閉め、答え、皆の顔を見た。 「渡された文は3通。全部読んだわ」 言うとフィーが睨むように溜息をついた。 「だから、そんな疲れた顔をしているのか。寝てないだろ」 「心配しないで、寝たわ」 嘘では無い。 でも、それ以上フィーを見るのを避け、私は目を逸らした。 「手紙の主は、テンビ男爵様とメンクル男爵様、そして、サリュート様からよ。まず、テンビ男爵様からは、前々から頼んでいたレインの素性を調べてくれた。そして、今回のヴェンツェル公爵家の馬車を襲った者達の足取りも調べてくれた」 馬車の中の和やかさは一瞬に消え、息も詰まるほどの空気へと変わった。 私はゆっくりと3通の文の内容を説明を始めた。 まず、テンビ男爵からの文は、レインの素性についてとヴェンツェル公爵家の馬車を襲った賊達の件だった。 レインの素性に関しては、驚く内容だった。レインの父の事を知る者は、少ない。と言うよりも皆無なのだ。 実際、公爵派がどれだけ調べても出てこなかったのを、それをテンビ男爵様は突き止めた。 レインの父君とされている男性は薬物で亡くなった、という事しか知られていない。 だが、レインが産まれる以前から家に立ち寄る貴族の男性が存在していた。 その素性は杳として知れない。 常に姿を隠すようにフードを深く被っていたし、また、人目を避けていた為、気付く住民はいなかったとの事だ。 自分が平民に近い立場だから、教えてくれた、と書いてあった。 その通りだろう。 貴族は平民には心を許しはしない。 平民は貴族には心を許しはしない。 上辺だけは通い合い、通じあっているように見せるが、本当は、反発し合い、混じり合う事は皆無だ。 情報のおかげで、ヴェンツェル公爵家の馬車を襲った馬車の足取りも掴めた、と書いてあった。 貴族のように何かをしようとすると、書類、書類、書類、と形式とそこに絡む政治的な立場も考慮しながらの決断になる為、時間がかかるのとは違い、素早く行動してくたからこそ、掴めたのだろう。 皮肉なものだ。 国民からの税で成り立つ貴族は、その税を使い、国を良き方向へ導く立場に居るはずなのだが、実際には逆行している。 民の為、ではなく、貴族の為の政治となり、そこに民の事など一切考慮されない。 だから、民は、貴族に口を閉ざす。 それをテンビ男爵様は、上手く己の立場を利用し、また、無駄なく動いてくれた。 この男がレインの父親なのかもしれません。もしかすると薬物でなくなった父、という人間は存在しないのかもしれません。この事を踏まえながら、よりレインを調べると、締め括られていた。 次にメンクル男爵の文だ。 元々おふたりの見張り役としてお願いしてたが、さすがテレリナ子爵様が選ばれだけあり、こちらも、賢い方だ。 グリニッジ伯爵様とベルー(レインの祖母)との関係を、執拗に調べてくれたようだ。 こちらも、平民に近いメンクル男爵だからこそ、情報者が硬い口を開いてくた。 グリニッジ伯爵様とベルーは恋仲だった。その子がルザミ(レインの母)! つまり、レインと王妃様は血が繋がっている。 このような恐ろしい真実だから、意図的に隠し、関係者は全て行方不明になっていた。 これは、王妃様さえも知らされてない。何故なら近親婚は我が国では禁止されている。 本当に、隠蔽された真実なのだ。 他は、レインが頻繁に通う教会があると書いてあった。 それも、その教会の神父様は、ベルーの弟だという。 きな臭いから、もう少し調べてみる、と締め括られていた。 最後は、サリュート様からの文だ。 ニルギル様が御婚約され、暫くは私と距離を置くようにお願いをした、と書いてあった。 相手は前々から話に上がっていた、中立派の貴族だからだ、下手な動きを見せたくないとの事だ。 賢明な判断だ。 ヴェンツェル公爵家では、王宮での人選問題で忙しいようだが、特に問題ない、と書いてありほっとした。 王妃派は瓦解したが、この後をどうしたらいいのか様子見の為ほぼ動きはないとの事だ。 後は、避暑地から殿下とレインが急遽呼び戻され、噂ではレインが貴族令嬢としての教育を受けている、との事だ。 様々動きがこれから起こるだろうから、様子を見ます、と締めくくられていた。 「以上が、文の内容よ」 私が説明し終わると、馬車の中は騒然とした。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加