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帝国へ(三通の文2)12
「ま、待ってよ!何、その怒涛のような衝撃内容!」
カレンの驚きの声を引き金に皆が、喚きだした。
「レインは何者なのですか!?」
「何がどうなっているんだ!?じゃあ王妃とルザミは、腹違いの姉妹!?いやまてよ、それなら、あのクソ王子とレインが血が繋がってるじゃないか!!」
「マジ、でそうなるの!?」
「お待ち下さい!この国では、近親相姦は禁じられていますよね!?」
「では、スティングをあえて婚約者にしたのか!?2人の関係を隠すために!?」
「バカバカしい!!そんなことしても血は隠せないわよ!」
馬車の狭い中で、興奮と混乱が広がり、騒がしさが漂った。
驚愕と困惑の声が響き渡り、皆が驚きのあまり思考がまとまらないような状況に、正直、私も、手紙を読んで同じ気持ちだった。
思考が止まった。
本当に頭が真っ白になった。
落ち着いて考えるのよ。
そう、自身に言い聞かせながらも、
激しく動揺する心の中で、さまざまな感情が交錯した。
衝撃と驚き、そして疑問や不安が心を襲い、どうすればいいのか、幾度も深呼吸した。
最も震撼を受けたのが、フィーの言うように、王妃様とルミザの関係だ。
そして、ターニャの言う言葉通り、この国では近親相姦は禁じられている。
それなら、答えは1つだが、本当にそうなのだろうか?
疑問は、様々な不安要素の芽を芽吹かせる。
どれだけ芽を摘んでも、摘んでも、手のどとかない先へと芽を出し、まるで嘲笑うかのすように広り、己の答えを否定してくる。
答えは、1つだが、それを知っているのは、黒幕、だけ。
深夜に文を読みながらも、また、暗いことばかり考えた。
でも、と、思った。
同じ人間だ。
多種多様の考えがあっても、生きた人間の考えだ。
「私の考えはね」
己の答えを信じるのみよ。
私の声に、喧騒とした馬車の中が一瞬で静まり返り、視線が一斉にこちらへ向いた。
「レインのお母様は本当のお母様ではないわ」
はっきりと断言し、見回した。
「ターニャの言うようにこの国では、近親相姦は禁じられている。王妃様が そんな事許す筈がない。それならば、レインの産みの親は他にいる。文を見て確信したわ。全てレインが関わっている」
己の静かな声に、闘争心が湧き上がる。
「レインに、貴族令嬢の礼儀作法を教育させると言う事は、表舞台に出すしかなかった」
「スティングが王妃にざまぁをやったからでしょ?」
やったね、という顔で私を見てきたから、微笑み返した。
「そうよ。王妃、という大きな手駒が無くなり隠れ蓑がなくなった。つまり、黒幕が本気で動きだしたのよ。その黒幕がレインの親よ」
「ルミザに会いに行っていた男でしょ?」
「だが、母親は誰だ?」
「ルミザでは無い事は確でしょう。そこも重要なのでしょうが、わざわざ、ルミザと密会を重ねたように見せ、レインでさえもルミザを母親だと信じている。つまり、貴族の血をあえて隠す必要があった、という事は、レインはかなりの上級貴族の血筋なのでは無いのでしょうか?それも、不義の間
に出来た子、と考えるのが普通です」
フィーの言葉に噛み締めるようターニャが答えた。
「そう思う?それなら、何故わざわざ殿下の傍に置いたの?不義の間に出来た子を、危険を犯してまで王宮に上げれば、誰かが気づくかもしれないのに?」
ターニャの言葉に反論するような形になったが、そう聞くと、下を向いた。
「仰る通りです。申し訳ありません。短慮な考えでごした」
「いいのよ。普通ならそう考えるわ」
「スティングは、これからどうしたいの?」
カレンの鋭くも好奇心の眼差しが、私の心に安心感を与える。
こうやって、論議するのは楽しい。
己の偏った答えではなく、多種多様な答えにまた、違う議論をする事ができる。
だが、それはまた、不安要素の芽を増やす事となる。
でも、カレンの言葉は、
私の答えだけ、
を求めている。
話し合った答え、
ではなく、
私が出した答え、
だけを、望んでいる。
「私の願いは1つ。より良い国を造る事。その為なら、邪魔なモノは排除する」
殿下の誕生日パーティーのあの瞬間から、私の気持ちに揺らぎはない。
殿下の為に動くのはてはなく、私の心のままに動くだけだ。
ふう、と深呼吸し、ターニャを見た。
「ターニャ、帝国に着いたら、調べて。文に書いてあった、馬車の停泊場所は頻繁に港、それも帝国便が最も多い書かれていた。セクト王国から運ばれた荷物、そして、馬車の腹に塗料が塗られていないのかを調べて」
「御意。小賢しい事をしてくれますね。堂々と薬物を帝国に流してくれいますからね」
忌々しく言いながらも、従う瞳で私を真っ直ぐに見た。
「本当に薬物、かしら?」
「違う、と?」
「前々から私は疑問に思っていた。毎回何台も馬車が動いている。お父様達は薬物を乾燥した植物を乗せているから必要なのだ、と言っていたけれど、本当に乾燥した植物なのかしら?」
「お言葉ですが、公爵様達からは前に乾燥植物が発見された、と報告を受けております。また、公爵様自ら確認した、とも聞いております」
否定するリューナイトに、確かにその通りだと頷きはした。
「そうよ。けれど、それさえも捏造されていたら?公爵派に裏切者が存在する。お父様は信じたかもしれないけれど、私は私の目で見ていないから信じない。ターニャ、馬車の車輪を見れば荷物が軽い物を運んでいるのか重いものを運んでいるのか分かるわよね」
「御意」
「全ての足取りを調べて。修繕もよ。何処かに出している筈だわ。それも調べて」
「御意」
「レインに関しては、国に戻ってから考えるわ。私がいない間に何か起きてるでしょうから、帰ってから考えるわ。とりあえず今は、帝国での休暇を楽しむ事に専念しようと思うの」
私なりに、行き着いた答えがそれだった。
お嬢様は、色々考えすぎなんですよ。
お嬢様は、真面目すぎます。
文を読みながら色々な事を考え、
不安と、
2人をなくした焦燥感に苛まれ、
涙を、必死に我慢し、
自分の弱さに潰されそうになっていた。
その時、2人の言葉が鮮明に浮かび、卑屈な己に戻るのを引き止めてくれた。
そう、だね。
私の為に犠牲になってくれたのに、
私が無駄にしちゃだめなんだ。
私が、
やっと本当の私になったのに、
造られた私に戻ったら、なんの意味もない。
だから、
考える事を放棄した。
色々考えたらキリがなくて、
私の答えにキリがなくて、
それなら、
考えるのをやめよう。
それなら、
クリンとリューナイトと決めたように、帝国を楽しむ事にしよう。
それが、
正しい答えだ。
「高等部最後の夏休みだよ。それも、殿下もレインもいないんだよ。こんな事初めてだよ。それも帝国だよ。これは、絶対に、楽しむべきじゃない!?せっかく、せっかく、クリルとリューナイトが戻ってきたんだもの」
頬を伝う涙の中、私は元気に言った。
本当は泣きたくなかった。
でも、
何をしても、何を考えても、クリンとリューナイトに繋がる自分の弱さと、2人を想う気持ちの強さを、中和するのが、涙しか無かった。
1粒の涙が、より、1歩進める。
「任せといて、スティング。絶対に楽しませてあげるよぉぉぉ!!」
隣に座るカレンが、ぐっと私を抱きしめるとわんわん泣き出した。
「スティングのバカァ!泣きながら言うのは反則だよぉ。私だって、クルリの事、我慢してたにぃ・・・!!」
カレンは泣きながら、何度もクルリの名前が出してきて、私もわんわん泣いてしまった。
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