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帝国へ(帝国に到着6)
誰?
聞いた事ある声だ。
セレスティーヌ様が慌てて立ち上がると、頭を下げた。
誰?
分からなかったが私も立ち上がり声の方を見ると、皇后陛下がターニャと幾人もの召使いの警護を付け立っていた。
いつ来たのだろう?全く気配を感じなかった上に、今の言葉からすると、かなり前から私たちの話を聞いていたのだ。
「私の指し示す光、皇后陛下。お忙しい中声をかけて頂き嬉しく思います」
セレスティーヌ様が甘い声で恭しく声を出した。
本当に色々な呼び方があるんだ、と関心したが、直ぐに気づき、私も頭を下げた。
色々な呼び方。つまり、自分がその方をどう思っているか、だ。
皇后陛下。フィーとカレンのお母様。
そうだ。2人のお母様だ。
「聖母の光、皇后陛下。声をかけて頂き嬉しく思います」
だって、いつも2人は、母上、お母様、と届く手紙を楽しみに待っていた。そうして、何を書いても許してくれる優しい、と教えてくれた。
それが、母であり、親だ。
2人の顔を見るだけで、皇后陛下がどれだけ離れていても、2人にとって大きく安心させてくれる存在かよくわかった。
「セレスティーヌ令嬢。下がりなさい。貴方は、候補から外れて貰います」
「お待ちください!私の何処が至らないのでしょうか!?」
「それさえも分からないとは、それが理由です。先程私が言いましたよね?その考え方が、選ばなかった理由だ、と。よく己の性格を分析し、公爵令嬢としての立場を重く受け止めなさい」
皇后陛下が淡々という言葉に、セレスティーヌ様は全く興味理解をされていにい様子で、食い下がって行った。
「私は公爵令嬢として十分立場を理解しております。ここにいる小国公爵令嬢とは、格が違います。帝国に相応しい礼儀も、智識も備えている私に、何が足りないのでしょうか?」
ああ、駄目ですよ。皇后陛下の顔を見て分かるでしょ?逆らわず大人しく下がるべきです。余計に印象が悪くなります。
「愚ですね。何も理解出来ないからこそ、その言葉が出てくるのです」
「どこの言葉でございますか?私は全てを理解しております。皇太子妃になる為に何が求められているのか、日々精進し、辛い教育を受けております」
「心は、教育では育ちません」
「いいえ、誰もりも優れた方に教えて頂ければ、全てが手にに入ります」
2人の空気が、重ならない。
セレスティーヌ様の素直すぎる想いは、私にとって羨ましい。
なにも考えず、己自身を信じ、誰の言葉にも左右されない、自分に自信があるからこそ出てくる言葉。
けれど、皇后陛下の求めている、人間、では無い。
「去りなさい、セレスティーヌ・エゾリク!私に二度も言わせるとはエゾリク公爵家は反逆と見なします!」
冷徹なその言葉が放たれた刹那、素早い動きで護衛達が動き、セレスティーヌ様の周りに集まると容赦なく腕を掴み連れていこうとした。
「お待ちください、私の指し示す光、皇后陛下!!お許し下さい!!どうか、どうかお慈悲を!!」
抗いながら動く度に綺麗なドレスがキラキラと光るのが、最後の光のように見え悲しく思えた。
「目障りだ」
短い言葉で十分だった。
ガクガクと身体が震える。
フィーの顔なのに、カレンだ。
冷たい瞳は、全てを見通している。一瞬の間に先を見据え、答えを導き出す。
カレンが、そうだもの。
そうして、その思考が矢のように一気に言葉として降り注ぐ。
カレンの追随を許さない言葉は皇后陛下の賜物なのだわ。子は親を見本とて育つ。
「お許し下さい!お願いします!」
まだ喚きながらでも、少しずつ遠くなる声に、皇后陛下は全く興味がないように、私だけを見つめていた。
異様な静寂が襲ってきた。
勿論、全く音が訳では無い。遠くからダンスの曲も聞こえてくるし、風が吹く度にカサカサと羽音もするし、誰かの声も聞こえてくる。
それなのに、私はとても静かに感じ恐ろしかった。
カタカタ、と身体が震える。
皇后陛下は、私を睨むように見つめ、ターニャも含め周りにいる皆様も無表情だ。
怖いよ・・・。
「皆、下がりなさい。ターニャ、お前もです。私はヴェンツェル公爵令嬢と話があります」
え!?
皇后陛下の言葉に、静かに皆は離れていった。勿論、少し離れただけだ。
そうして私の近くにやってきた。
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