帝国へ(帝国に到着7)

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帝国へ(帝国に到着7)

とても綺麗な女性だ。 私よりも少し背が高く、少し細めの金色の瞳は、同じ金色の髪の色なのに、鮮やかに輝いていた。 勿論、結われた髪や、ドレス、身につけた宝石全てが美しく豪華だが、それ以上に内から溢れ出る、高貴で洸希な存在に圧倒され、足がすくんだ。 氷の皇后。 そんな言葉がピッタリだった。 ふっ、と急に顔を緩め微笑んだ。 「そんなに怖がらなくてもいいわ。実はね、前々からセレスティーヌ嬢は自意識過剰で問題視されていました。王太子妃には華美すぎて帝国民、他国に好まれる存在ではないと、噂が絶えなかった。だから少し意地悪したのよ。レグリオに頼んで貴方が2人で話をするように頼んだよ。貴方との会話なら、きっとセレスティーヌ嬢の本音が出るでしょう、とね」 右手に持っていた扇子を、左の掌で軽く叩す姿は、まるで子供のよう無邪気に、楽しそうに見えるが、それは悪女の底知れぬ威圧が漂っている。 レグリオ。 それは、皇帝陛下の名前。 その皇帝陛下の名前を事も無げに口にするのは、それだけお互いの信頼感と、そうして深い愛を感じた。 「その・・・セレスティーヌ様はこれからどうなるのですか?」 「心配するのですか?あなただけでなくそなたの国を馬鹿にした、セレスティーヌ嬢を?」 その探る目と感情、そして追い詰める表情。 カレンのお母様だわ、と妙に納得し、敵にしてはいけない、と言う緊張感を感じた。 「あの方はいい旗になります。貴族としての権力を鮮やかに発揮する時、その中央に立つに相応しい方です。民は誰もが理想の貴族を求める。美しく気高く、気品ある貴族。それがあの方にはあります。確かに裕福な家に育った高慢さはありますが、他の世界を知ればまた、違う知識を持ち、素晴らしい女性となります」 正直あまり好きではないタイプの人だ。 でも、自分の意志をはっきり持ち、まっすぐに自分の気持ちを話してくれた。 平等の教育。 やり方は違い、思想は違うが、行き着くところは同じ。 私も、同じだ。 その意味では嫌いになれない。 「あの方にとって狭い世が己の世界だった。けれど、上級貴族にはよくある育ちです。それが狭い世界だと気付ける者こそ王者となる。だから、その王者になりたいのです。私は、誰もがお腹いっぱい食ベれる世界を作りたい。私は・・・運良く庶民の気持ちを知れただけです」 私の答えに皇后陛下は、空を見上げ楽しそうに言った。 「世界は、全て平等であり、そして、胃の中は、全てが平等に空腹を感じる」 私も知っている言葉だ。 「初めて帝国を統べた初代皇帝陛下の言葉です。世界は、世界が滅びるほどに自然現象に苦しみ、飢え苦しんだ。だからフィーとカレンを外に出した。世界を知った時、人の心を知り、自分の狭い心を知り、そして胃の中の空腹という絶望を知った時、本当の帝国の皇族となる」 少し寂しそうに言うと、急に恐ろしい程に真顔になり、より私に近づいてきた。 「母として聞きたいのです。自国で王子と婚約しているのは知っています。その王子を慕っているのも知っています。ですが、今はどうなのですか?」 真摯な言葉と揺れる瞳に母としての不安を感じ、それを素直に見せてくれる感情に胸を打たれた。 「あの方に、気持ちは、全くありません」 本心のまま素直に答えた。 「婚約解消をするのですね?」 曖昧でなく、確固たる答えを求めている。 「・・・まだ、今はその時ではありません。ですが、婚約は解消致します」 目を逸らしたいのに許されなかった。 「その時、とは、何を指しているのですか?」 核心を突いてきた。 そうして、持っていた扇子を私の顎にあて、見開く瞳で私を抉るように見つめてきた。 風が皇后陛下の髪を揺らす。 その1本1本が襲ってくるかのような恐怖に駆られた。見えない圧がじんわりと身体を蝕むように、私の心臓めがけて蠢いている。 「ザンとターニャから全て報告は受けています。薬物の出処を探す?そうかしら?その割には他の動きが見えると聞いている。真の目的とは何?」 くっ、と顎を上げ笑うその姿はカレンの何十倍も恐ろしを感じた。 全てを見透かす追い詰める瞳の強さが、身体を硬直させた。 許されたい為に、恐怖で全てをぶちまけたい衝動に駆られたが、 クルリとリューナイトの顔が浮かび、ふう、と気持ちが落ち着いてきた。 黙っていても、ここまで来てあの方達に会えば、カレンもフィーも私が何をしたいのか感ずくかもしれないし、いずれ分かる事だ。 でも、何処で流布するか分からない。 それは、私がフィーにとって危険分子だと思っているなら、尚更ここで話すべきでは無い。きっと私の邪魔をしてくる。 もっと時間を稼がないといけない。 「ふふっ」 顎から扇子をとり、楽しそうに笑いだした。 「本当に手紙通りですね」 「それは、どのような意味ですか?」 「いい意味よ。私に対してそのような目で見てくるとは、これからが楽しみですわ。ねえ、ヴェンツェル公爵令嬢。いいえ、これからスティング嬢、と呼んでもいいかしら?」 お願いするように首を傾げる皇后陛下に、 「勿論でございます!」 妙に大きく返事をしてしまい、恥ずかしくなった。 でも、嬉しかった。 「本当に何をしたいのか、純粋に興味で聞いているの。いつかは分かる事なのでしょうけど、私だけ教えて貰えない?大丈夫、誰にも言わないわ」 なんか、ずるい。 フィーの顔して皇后陛下で、さっきと打って変わって強請るようにに聞いてくる。 逆に喋りやすくさせてきた。 「だって、誰かに教えてしまったら楽しくないでしょ?皆の反応を見て楽しむべきよ」 意地悪な顔で微笑んだ。 「私が聞いて、もし、スティング嬢に立ち塞がった時、きっとフィーとカレンを悲しませるわ。フィーがあなたを慕っいることも、カレンが初めて友人と認めている事も知っています。正直複雑な気持ちがあるのはわかって欲しいわ。母としての気持ちと、皇后としての気持ちは違う。それでも・・・私はあの子達を心配している。だからあなたが何者かを見極めたい。何を望んでいるの!?」 真っ直ぐに私を射抜くように、本音での言葉で見つめてきた。 この方は本当に心から2人を大事に思っている。 その2人と私は出会ってしまった。 私は、2人に出会ったおかげで、今の私がいる。 そうして、 2人が、この方をとても大事に思っているのも知っている。 「革命、です」 隠す意味などないのかもしれない。 ここまで来て、 ここまでやってしまって、 後戻りなど出来ない。
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