帝国へ(叔父様達2)

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帝国へ(叔父様達2)

「スティング・ヴェンツェルと申します」 五階建ての本屋の立派な入口を入ると、案内所と書かれた場所があり、綺麗なお姉さんが2人座っていた。 そこに行き、自分の名を言った。 「お待ちしておりました!」 その嬉しそうな顔に嫌な予感しかしない。 あの人の事だ、絶対何か企んでる、と思っていたが予感的中だ。 「こちらでお待ちです」 すぐさま立ち上がり、私達を興味深く見ながら、と言うよりも興味津々といった顔で奥へと案内してくれた。 やっぱり嫌な予感しかしない。クルリの為とは言え本当なら本屋を避けたかった。でも、クルリとリューナイトの喜ぶ顔を見てここにして良かった思う気持ちは本心だが、でも、でも、いっつも奇想天外な事を思いついて、皆を振りましたあの人だ。 あんな事や、こんな事が思い出され、腹が立ってきて、会いたくないと思うが、あの状況ではあの人にあの方達を託すことが最善なのも事実だった。 これ以上考えると物凄く気分悪くなりそうで考えるのをやめて、周りを見た。 店はとても広く沢山の人で賑わっていた。建物自体もとても大きかったが、やはり中に入ると、圧巻だ。 幾つもの背の高い本棚が所狭しと並び、そこにぎっしりと見たことも無い表紙の本が沢山並んでいる。 凄いです!本が沢山あります!ほらっ、あれっ!最新刊ですよ!! クルリの独り言なのだろうが、全く小声では無いからよく聞こえた。 「我慢です、我慢です、我慢です」 今度は少し大きな独り言の声が聞こえ、可愛らしくて笑ってしまった。 「そうだね、クルリ。後でゆっくり見れるからね。少し待っててね」 「はい、お嬢様!」 緩んだ顔で小さく答えながらも、それでもキョロキョロと見ていた。 「ねえねえ、何かいいね」 カレンが、いつも楽しそうなのだが、いつも以上に目を輝かせながら私の袖を引っ張った。 「何が?」 「だってさ、私達を見る目が有名人に会ったような顔してるよ」 「そりゃあ皆でこの格好してたら目立つでしょう」 「そうだけど、普通の人みたいな顔で見てくれてるんだよ!」 あ、と気づいた。 そうか、普段は皇女なんだ。 羨望、敬い、希望、そして、嫉妬。 そこに秘められるのは、手の届かない、頂に対する眼差しだ。 それは皇女という、言わば人形に対するものであって、カレン、という1人の人間を見ている訳では無い。 「そりゃそうよ。今はリオンなんだよ。皇女じゃないもの」 「そうね!」 たったその一言の返事に、湧き上がる素直な喜びを感じた。 「俺は恥ずかしいよ。只でさえ騎士団のヤツらがいて、俺達貴族です、と言っているの、良くそんな単純に考えられるな」 「帝国騎士団の紋章を外しているから、どこの貴族なんて分かんないわよ。それに、これだけ人がいるんだよ。他にも貴族はいるわ。ほんっとちっちゃい男ね。そんなんだから、クルリに服を作ってもらえなかったのよ。存在感、うすっ、てやつよ」 「なんだと!?」 「ぷっ、図星だった?だって、本当に目立ってたらクルリがすぐに作ってくれたよね」 「存在が薄いんじゃなくて、お前が濃すぎるんだ!」ー 「ちょっとここでケンカしないでよ。確かに人が多いんだからこれ以上目立ってどうするのよ」 「カレンが」 「フィーが」 「余計な事言うからよ」 「余計な事言うからだ」 2人で睨みあいだした。 「・・・わかったわ。ともかく静かに着いていこうよ。思ったよりも人が多いわよ」 2人は周り見て、私を見て、フンと顔を背けながら大人しく歩き出した。 でも、確かに人が多いような気がする。大きな本屋だから、と言われればそうかもしれないが、何か凄く見られてる。この格好とかじゃなくて、何か、それだけじゃないような気がする。 表情が 不安に駆られながらも、お姉さんの後を着いていき、店の奥の、従業員様の扉を開け入った。 少し廊下を歩くと、従業員の人達とすれ違うたびに、何故か待ってました、みたいな顔をされて、ますます不安になった。 やっぱり何かする気だわ。 「この部屋でお待ちです。では、私達は直ぐに準備にかかりますのでなるべく早く来てくださいね」 そういうと凄い速さで戻って行った。 準備? 早く? 「ねえ、何の話し?」カレン 「お嬢様、何か頼んだのですか?」クルリ 「さあ?中の人が何か頼んだのかもね」 はあ、と溜息をつく私に、クルリとリューナイトはやっと気づいたようで苦笑いした。 「そうかもしれませんね。賑やかな方ですからね」リューナイト 「場合によっては楽しい時もありましたよ」クルリ 「私は全くなかったわ。まあ、いいわ。ともかく入りましょうか」 扉を叩いた。 「叔父様、スティングよ」 私の声に、ばたばたと音がして、扉が開いた。 「よく来たな、スティング。おお!!素晴らしい格好しているな!!それに、お前の手紙通りの面々だな。さあ、入れよ。勿論、最低限の人間だけにしとけよ」 軽くウインクしながら、昔と変わらない能天気な言い方でケラケラ笑う叔父様に、つい冷たい目で見てしまった。 「ザンとターニャ以外の護衛は外で待たせて」 「分かりました」 ザンが指示をしている間に、私達は中へ入った。直ぐにザンも入ってきて、扉を閉め、扉の前でザンとターニャは立った。 部屋の中には、叔父様と女性1人と私と同じ歳くらいの男性がいて、直ぐに私たちの前にやってきた。 女性と男性は緊張の面持ちながらも、笑ってくれた。 すっと背筋を伸ばし、私は軽く裾を持ち上げ、深々と頭を下げた。 「お久しぶりでございます、ラギュア様、カンタラ殿下」 「殿下・・・?」 カレンの硬い声が背後が聞こえた。 「どういう事だ?」 フィーの戸惑いの声がした。 「スティング様、頭を上げてください。私の方が頭を下げるべきなのです」 ラギュア様の涙ぐむ声で、私の肩に手を置かれた。 「スティング様、お願い致します。母と同じく、私も貴方様に頭を下げて欲しくはありません。私達は本当に貴方様の感謝しているのです」 カンタラ殿下の優しい声に、私は頭を上げ、おふたりを交互に見た。 「恐れ多いお言葉でございます」 「はいはい、そんな硬っ苦しいご対面してたら時間無くなるぜ。ほら、皇太子様と皇女様を放って置いてどうすんだよ」 茶化すように叔父様言うと、私を無理やりぐるりとフィーとカレンの方を向かせた。 ぎっと叔父様を睨んだ。 「叔父様は本当に空気読めないわね、とか思ってんだろ?へっ、お前の考えそうな事はすぐわかるぜ。その眼光、戻ってきたな!いやあ、らしくなったわ」 「どういう意味よ!私の考えが分かるなら邪魔しないでよ。挨拶は大事よ!叔父様だってその適当さは変わらなわね!だから、お母様にいつも怒られてたんでしょ!」 「だからなんだ。気にすんな。それよりもラギュア様とカンタラ殿下を紹介するのが先だろ?ほらほら、お前の言う挨拶が大事、というやつはどうなったんだ?」 もおおおおお!!! いつもながら叔父様は自分勝手だわ。 でも、言っていることは今は正しいだけに、余計に腹が立つ。 「お嬢様、深呼吸です」 リューナイトが真顔で心配そうに言ってきたから、ため息をつくことを我慢していた深呼吸した。 「カレン、フィー、紹介するわ。こちらが、ラギュア・ソウルバ様、ソウルバ侯爵様のご息女であり、陛下の元婚約者であり、今は・・・まだ、側室と言う立場よ。そうして、陛下の想い人だった方よ」 私の紹介に2人の顔は固まった。 「その隣におられる方がラギュア様のご子息であり、陛下のもう1人のご子息。私達よりも1つ歳上。つまり、第1王子よ」 一気にフィーとカレン、ザンとターニャの空気が鋭くなった。
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