帰り2

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帰り2

メニューを見て、お茶やケーキを頼んだが、これまで遠い存在だったお2人が、目の前にいるのがとても不思議だった。 この方達は、立場も配慮も持っている。 何をする訳でもなく話をしているだけなのに、溢れるお2人の気品に、溜め息が出てしまう。 つい殿下と比べてしまう自分をすぐに振り払った。 間近で見ると、とても綺麗なお2人に、なんだが自分が場違いに思えて居心地が悪かった。 「ねえ、スティング様?」 「何でしょう、カレン皇女様」 「やめてよ、あなたもいずれは王族の一員なるのだから、そんな堅苦しく無くていいわよ」 王族の一員。 殿下とレインの事が脳裏に浮かび、胸が苦しくなった。 「そうもいきません。私がどのような立場に変わっても、貴方様は帝国の皇女様です」 「じゃあヴェンツェル公爵家に、スティング様が私を蔑ろにした、と文を送り付けるわよ」 「・・・あの・・・?そこまでする必要があるのでしょうか?」 あまりに突飛な発想と、拗ねたような顔に戸惑いが隠せなかった。 「カレン、子供じみた事するのはよせよ。困ってるじゃないか」 「だって、私は前から話をしたかったのよ!それをあんたがいっつもいっつも、邪魔してくるからこんな時期になったんでしょ!?元々あんたがうじうじして」 「カレン!」 何故か慌ててカレン皇女様の名を呼び、睨みつけた。 「ふん。だったら私とスティング様の仲を取り持ちなさいよ。そういうの得意でしょ」 「・・・わかったよ。スティング様」 「は、はい」 「急ですが私達の友人になって欲しいのです。友人と言っても国同士の付き合いではなく、学友として接して欲しいんだ」 「あの・・・私とですが?そこまで仰る程の理由が解りません。正直お話をさせて頂いた覚えもなく、同じクラスでありますが、差程接点もありません」 「そうだけど、俺達は仲良くしたいと思っているんだ」 「フィー、もっとはっきり言ってよ!まどろっこしい。私が言うわ!ねえ、スティング様その髪型、ビビ、だよね!?」 その名前にピンときた。 と言うよりも、恥ずかしくて、顔が熱くなってきた。 「仰る通りです。私では無く、私付きの召使いのクルリが大変好んでいまして、私がその小説に出てくるビビに似ているから、と髪を似たように結っているのです」 クルリは代々我が家で働く、執事の孫娘で、今年23歳のソバカスの似合う赤毛の元気なメイドだ。 歳が近いおかげで、話しやすいし、公の場では、さすが執事の孫娘、と感心する落ち着きで振舞ってくれる。 そのクルリがとても大好きな推理小説だ。 ビビはその推理小説の登場人物なのだが、女主人公のリオンでは無くその親友の女性なのだ。行動派で無鉄砲の主人公をいつも冷静にさせ、一緒に犯人を探し出していくのが、親友ビビ。 結構人気のある小説らしい。 顔はともかく、設定の歳も一緒で、薄い茶色の瞳に、緑色の緩いウエーブの髪。そして耳にかかるように一筋の紫の髪の色で三つ編みをしている。 元々が目の色と髪の色が同じでウエーブだったから、クルリが嬉しそうに、紫にしますね、と言って三つ編みの部分だけ染めた。 少し恥ずかしかったが、出来上がりは特におかしくもなかったし、家族からも似合っている、と言われたからそのままだった。 「やっぱり!私も好きなのよ!前々からそうじゃないかと思ってたのだけど、誰かさんが恥ずかしいからそんな事聞くな、と言ってくるから聞けなかったんだよね」 誰かさんとは、もちろんフィー皇子様の事だろう。 やれやれといった顔で、私に相手してあげてと微笑んだ。 「スティング様は読んでないの?」 「読みました。ですが、主人公の活発というか、あのようなはっきりした性格が私には理解できなくて、感情移入が出来ずらく・・・その・・・」 「うんうん、やっぱりビビにそっくりだね、スティング様は」 目をキラキラさせながら私を見てくる所、本当にその小説がお好きなのだろう。 「俺は読まされたけど、カレンはリオンにそっくりだから好きなんだろうな。あの破天荒で自分勝手で、好き放題。カレンにそっくりだ」 「何言ってるのよ。女だからって大人しくする必要は無いのよ。もっとはっきりと言うべきよ、ね、そう思うでしょ、スティング様も」 えーと、そう同意を求められても、私さっき感情移入しにくい、と説明した、よね? それに、帝国の皇女様だからある意味、好きなように出来るだろうけど、貴族の息女は、淑女としてしとやかにしなければいけない。 「困ってるだろ?ほら、ケーキ来たから大人しく食べろよ」 「あんたに聞いてないし。スティング様、今度遊びに行ってもいい?」 ぐっ、お茶を詰めそうだった。 今なんて言った? いや、聞き間違えだ。 だって、さっき話をしだしたばかりの人に、それも帝国の皇女様に、 今度遊びに行ってもいい? とか、そんな言葉を私にかける筈がない。 今度、遊びませんか?だよね。 うん、それだ。 「で、明日でいい?それとも週末がいいかな?ねえ、フィーはどっちがいい?」 え? 待って? 明日?週末? どうも聞き間違いではないらしい。 「どっちも、でいいんじゃないか?」 え? そこはフィー皇子様、何故即答なのですか? 「これで、やっとお母様に手紙が書けるわ。友達になったよ、とね。ねえ、フィー」 なんだが意味深に笑いながら言うカレン様に、フィー皇子様はカレン皇女様睨んでいた。 「ともかく、スティング様大丈夫?話についてきてるか?」 「・・・全く・・・意味が分かりません」 「スティング様、明日はその召使いも呼んでね」 「・・・わかりました」 「おっし!!やっと楽しくなってきたよ」 「俺もだ」 えーと?私は? 「ねえ、スティング様。私のケーキと半分こしようよ。それ食べてみたい」 「俺も」 「じゃあ皆で分けようか。3種類食べれるね」 「・・・わかりました」 「じゃあ俺が分けるな」 そう言うとフィー皇子様がそれぞれのケーキを3等分仕分けてくれた。 手馴れた感じだったので、お2人はいつもこうやって分けて食べているのだな、と親近感を覚えた。 私とお兄様も同じことするもの。 美味しい、とお2人は食べていたが私は、ケーキもあまり喉を通らずお茶ばかり飲んでいたら、カレン皇女様がそれに気づき、なんと、フォークにケーキを刺し、 「ビビあーんして」 と言ってきたのだ。 はい!? 「・・・それ載っていたな」 「覚えてた!?友達、と言うのはこういうのするんでしょ?」 カレン皇女様の、友達と言うのは、と言う言葉にとても共感をもった。 私も友だちらしい友達はいない。 この方達は立場的によりそうだろう。 私は、殿下の側にいたくて、そんな人達を作る時間がなかった。 お茶の時間はとても楽しかった。 不思議に3人でお喋りしていると、いつの間にか、 フィー様、 カレン様、 呼ぶようになっていた。 私達は、友達、というものに飢えていたのかもしれない。
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