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何故そうなったのかしら?
「何故そうなったんだ?」
セインお兄様が首を傾げながら、お皿に乗っている魚を切り口に入れた。
「さあ?私が聞きたいのだけれど」
私は添えてあるレタスを口に入れた。
「ふうん。来月からこの屋敷で過ごす予定になってるからじゃないか?」
「やっぱりね、それしか考えられないよね」
お2人は留学の1年、王宮と公爵家で過ごす事になっている。単純に4で割るから、3ヶ月ずつ過ごし、最後の3ヶ月は王宮で過ごす事になっている。
要はその国の権力を持つ家とより繋がりを持つ為だ。
王宮だけではなく、政治的も考え公爵家と親密になるのは、国にとっても、帝国にとっても便利だ。
それが来月からこの屋敷で過ごす順番になっている。
「違いますよ。純粋にビビと仲良くなりたいんです!やっぱりお嬢様はビビに似ているんですよ!じゃあ明日はビビが着ている服で登校しましょう!!」
だから、私はビビじゃないってば。
「売ってないでしょ?」
すかさずスルーしようと答えたら、
「作ってます!」
エッヘン、とクルリが得意顔を見せたかと思ったら食堂から脱兎のごとく出ていった。
「・・・マジか・・・?」
「・・・うそ・・・?」
夕食時にお兄様と今日の事を話しをしていたら、この流れになった。
お父様とお母様は夜会に招待されお2人で出掛けていた。
「ミネアも持っていたが、そんなに面白いのか?そう言えばお前が誰かに似てる、とか言ってたな」
ミネア様は、グラバル伯爵家のご息女だ。
お兄様は20歳でミネア様は1つ年上。
一緒の大学に通っていてこのままいけば婚約するだろう、という仲である。高等部から知り合ったが、とても可愛らしく大人しい方だ。
「ミネア様も読んでいるの?ちょっと意外だな」
「どんなに内容なんだ?」
「推理小説なんだけど、主人公のリオン、という18歳の女性がとても活発に事件を解決していく話しなの。女性とは思えない行動派で、たまに殴り合いとかするの。私は少し過激じゃない、と思うのだけど、そこが人気があるみたいね」
「へえ、それでか。ミネアがこんな女性に少し憧れるの、とか言っていた」
「そう?少し荒唐無稽過ぎるわ。まあ、作り話だから、人それぞれの好みがあるだろうけど、私は、ちょっと気持ちが理解出来ないわ」
「お前は殿下の婚約者だから、それでいいと思うよ。兄から見ても立派だと思っている」
「恐れ入ります、お兄様」
優しく微笑むお兄様の目が、労りを感じた。
もう、この家で誰も殿下と私のレインの仲を言わなくなった。
いや、諦めた、といった方が正しいな。
私がどれだけ忠告しているか分かっているし、結局、陛下も王妃様を、強くは言わない。
殿下の乳母であり、そうして、王妃様は私との婚約を心から祝福してはいない。
あの方の実家である伯爵家の権力が薄れるのを恐れているのは分かっている。だから、レインが都合がいいのだ。
殿下の寵愛を受けた平民。
背後から上手く操り、側室として上がらせ、その子を王位につかせる。
つまり、殿下と私との間には男子が存在しない。
ゾッとする話だが、よくある権力闘争の基本の1つだ。
陛下にしてみれば、ヴェンツェル公爵家の後ろ盾はあり、どちらが男子を産んでも直系の血は残る。
王妃様の機嫌を考えるなら、私の事よりも、レインを取るだろう。
実際陛下の側室が子を産んだ時点で、殺そうとした所をお父様達が、どうにか国外に逃がしたのだ。
そんな自己中心的で権力を握りたい王妃様に、陛下は、下手に逆らわない。
私は、只の、お飾りであればいいのだ。
笑わせる話しだわ。
そこまで分かっているのだから、私が強く婚約破棄をお父様に申し出ればいいのだけれど、
私は、
殿下を愛している。
この想いがあるだけに、私は殿下の側を離れたくなかった。
そうしてこの想いを家族は公爵様達は知っている。
だからこそ、私の意思に任されていた。
「スティング様!おまたせしました、これです!!」
感傷的になる私とお兄様の重い空気の中、ばばん、と扉を開けクルリが嬉々とした顔で持ってきた服を広げて見せた。
「嫌よ!そんな服!!」
喚く私と、
「面白いな!着替えてこいよ!」
大笑いするお兄様と、
「でしょう!早くお嬢様!!」
クルリの声に、
「だから嫌よ!そんな大きなリボン、恥ずかしいわよ!!」
食堂はそれから大騒ぎになった。
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