ちがう、ちがう

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 恨みの山という場所をご存知でしょうか? そこは地元の人間もあまり近寄らないような所なんだそうです。というのも、その小さな山の一角には少し開けた場所があるそうなんですが、その周りにある木々にはいくつもの藁人形(わらにんぎょう)が刺さっているというのです。  月が出る夜、人の気配などまったくないような時間帯に、カツーン、カツーン、と金属音が響き渡るそうです。誰かが釘を刺している音です。  噂では、月の光が当たるその場所で、一日一つ、七日間で七個、誰にも見られることなく藁人形に五寸釘を差し込むことができれば、呪いがかかるとされているというのです。誰かに見られれば呪いの効果は消えてしまう。だからたった一人で人里離れた山の中に入って釘を打つのです。呪いとはつまり、死のことでしょう。  月の光というものはときに不思議な力を持つと言われておりまして、特に満月は悪意や憎しみという負の感情などをより一層増幅させてしまうそうです。満月の夜になぜかイライラしてしまったり、事故が起きやすかったりというのも関係しているのでしょう。  私は『ヤスノリ』という名前でホラーや心霊系の動画配信を行っておりまして、おかげさまでそこそこのファンがついているんです。これ一本で食べていけるほどではないのですが、細々と配信を続けております。  主に怪談や都市伝説のようなことを話しているのですが、最近はネタが尽きてきまして、なかなか思うように再生数が伸びずに悩んでおりました。  そんな折、まあ私の性格の問題とでも言いましょうか、とあるアンチコメントに腹を立ててしまいまして。お恥ずかしい限りではあるのですが。そのアンチからは、『お前はつまらない話をただベラベラと話しているだけだ』と言われてしまったんです。 『実際に現場に行って、心霊映像なりを撮ってこいよ』と。  私はすぐに頭に血が昇ってしまいまして、売り言葉に買い言葉で『やってやろうじゃないか』そう発言をしてしまったんですね。私の短気な性格が災いしたというのか、とにかくそれでなにか恐怖映像を撮影しなければならなくなったんです。  実のところ、私はそのいわゆる心霊スポットといった場所に行ったこともなく、しかもたった一人でとなると勇気が出なかったんです。他に知り合いを誘えばよかったんですが、そのアンチからは『ずっと一人で活動してきたんなら、もちろん一人で行くんだよな?』と言われてしまいまして。今にして思えばそれはその視聴者の罠だったのではないかと疑ってしまうところではありますが。
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