ちがう、ちがう

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「さあみなさん。このお(ふだ)をそれぞれ一枚持ってください。それはあなた方を守ってくださるありがたいお札です。それをしっかりと握りしめて。彼を成仏させてあげましょう。祈りを捧げてください」  住職はそう言うと、持っていた数珠を私に向けてお経を唱え始めた。  怒りが増していく。満月の光が憎悪の感情を増長させているのかもしれない。月には不思議な力があると言われている。怒りや憎しみという感情は、その光によって大きく成長してしまうそうだ。  生きている間にはあまり感じ得なかったことが、霊体になって余計に恩恵を受けているような気がした。  私は怒りを込めた。それは炎に変わっていく。四人の演者たちが握っていた紙の札を一瞬にして燃やした。 「きゃああ!」  慌てて椅子から立ち上がり、後退りする者たち。 「うわあ! なんだ、これ」 「燃えたぞ! 一瞬にして」 「こ、これ、ヤバいんじゃないですか?」  皆が慌てふためき、声を張り上げている。その姿が滑稽に思えた。 「い、一旦止めましょう! カメラ止めて!」  ディレクターらしき人物がカメラの前に出てきて、両手を上げている。現場の混乱は容易に伝わってきた。 「住職、これはどういうことでしょうか? 撮影は中止した方がいいですか?」 「大丈夫です。今は少しだけ興奮しているだけで、すぐに落ち着くはずです。私に任せてください」
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