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「だって君、退屈だって言ってたでしょ?だからこの【カゼマーキ王国】に転生させてあげたの。ここはキミのいた世界と違うから、楽しめるよぉ〜」 「訳の分からないこと言ってないで、さっさと元に戻せっ!」 潤はテンセイを捕まえようとするが、素早く身をかわし捕まえることが出来ない。ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべながら、こう言った。 「まあ、頑張ることだね〜。これでもう退屈しないよ。じゃあね!」 「あっ、おい!待て!」 潤の声を無視して、テンセイはふわりと高く飛び上がり、一瞬にして消えた。目の前の出来事と、テンセイの話に潤は呆然としている。 (冗談じゃない……!) 今週末の会議資料を確認しなければならないし、来期の計画ミーティングもある。何より急に自分がいなくなったら、部下たちはきっとパニックだ。そんなことが咄嗟に頭をよぎるが、ふと気がついた。仕事のことを心配するよりももっと心配することがあるのではないか?と。 眉間に皺を寄せていた潤は、ふと扉が開く音に気づく。先ほどの少年が戻ってきたのだ。手には衣服のようなものを持っている。 「着替えなよ。その格好、動きにくそう」 少年の言葉に、そっちの衣服の方が動きにくそうだと反論しそうになったが、スーツは砂まみれだし、汗をかいて気持ち悪いのもあるので、大人しく少年から衣服を受け取った。そして手にしたとき、何かが落ちた。何だろう、と拾うとそれは下着だった。下着まで準備してくれたのかとひろげると…… 「な……」 広げてみて気がついた。左右には細い紐。いわゆる紐パンだったのだ。そして尻を覆う筈の布が極端に少ない。いわゆるティーバックの下着だ。 「何だこれは」 「下着だけど、知らないの」 「分かってるよ!ただこんなの、履いたことない」 「え?今どんなの履いてるの?見せてよ」 「み、見せるわけないだろ!着替えてくる!」 潤は手にした衣服を持って、慌てて小屋の隅に移動しスーツやシャツを脱ぎ着替える。紐パンには抵抗があったものの、これからずっと今身につけている一枚のトランクスを履くわけにもいかない。渋々紐パンを履いてみたものの、腹が冷えそうだとため息をついた。 着替え終わると少年が洗ってやる、とスーツやら一式を奪い取った。きっとアイロンなんてないだろうし、シワになるからいいと言いそうになってふと潤は気づく。シワになったところでこのスーツを着てどうするつもりなのか。仕事に行くつもりなのか?元の世界に戻れるとは限らないのに。そしてこんなところにいるのに、またもや仕事のことを考える自分は何なんだ、と潤はため息をついた。 (……考えたところで、どうにもならないのに) 冷静に考えてみると潤がいなくなっても、会社は潰れるわけがない。部下たちだって、そんなに馬鹿ばかりじゃない。初めは迷惑をかけるだろうがそのうち何とかして仕事を回してくれるだろう。そう自分に言い聞かせて肩の力を抜く。 (あっちのことを考える前に、ここで生きる術を見つけないと) テンセイの言うことが本当ならば、自分は元の世界に戻れないかもしれない、と潤は気がついて目の前の少年を見る。今頼れるのはこの少年しかいないのだ。 「色々ありがとう」 手を伸ばし、握手をしようとしたが少年は不思議そうな顔をするばかりだ。 (どうやらこの世界は握手の習慣はないようだ) こうやって一つずつ、この世界の常識を学んでいくしかない。ただ不思議なのは…… (なぜ言葉が通じるんだろう) まあいいか、と潤は頭をかく。その辺りはテンセイが何か仕組んだんだろうと思うことにした。 「どこの国から来たの?」 「あ、俺?……ええと、俺どこから来たのか覚えてないんだ。覚えてるのは、潤っていう名前だけ」
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