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ボク、クリストファー
吾輩は猫である! 名前はある。ご主人様がボクを拾ったその日に付けてくれたからな。その名も「クリストファー」だ! イケてるだろ。
今日もちゃんと鏡の前で身支度するぞ。紳士のたしなみだ。
これがまたオトコらしい真っ黒毛のボクは、生まれて半年たったからもう一人前だ。そろそろ自分のことボクって言うのはやめて、吾輩……とか? とにかく大人猫のように振舞うのが正解だよな。
──ガチャリ。
部屋の扉がゆっくり開く。
「クリストファー、おはよう。さぁご飯を食べましょう」
「にゃぁぁん!」
あああセレーネ今日も可愛いニャ~!
そのキラキラ真っ赤な瞳で見つめられると、ボクもうゾクゾクしてへそ天で降伏するしかないニャ!
キミのツヤっツヤな髪がくるくるフワフワして、いつもボクを誘うのニャ~ン。
…はっ! 語尾がニャーになっていた。テンション上がるとこうなってしまう。もう大人なんだから気を付けないとな。
ボクのご主人様、スヴァルド侯爵家の末娘セレーネは三国一の美少女だ。歌もピアノもうまいし、あと、心優しい“聖女”なんだ。世間ではそう呼ばれている。聖女の特別な力で薬を作って、街のみんなにあげてるんだ。
心のきれいなキミが世界でいちばん大好きだ!
さて、ご飯を食べたらキミの膝でお昼寝さ。キミが優しく撫でてくれるこの瞬間がボクの宝物だにゃん。
「あなたがお家にきてから半年が過ぎたわね」
セレーネがボクと過ごしたメモリアルデイズを思い出してるぅ! なんて愛しい時間なんだ。
彼女が生まれたばかりのボクを拾ったのは半年前。
薬の材料を採りに彼女は近くの森に入った。そこで光る木の幹を見つけたという。すぐ木こりに切ってもらったら、小さなボクがみゃぁぁと鳴いていた…それを連れ帰ったと。
……どんなシチュエーションなんだ? いやこれ話盛ってるだろ?
でもセレーネの可愛い冗談はなんでも受け入れてやる。だって彼女はボクの未来の奥さんだから!
生まれて一年でいわゆる適齢期だからな。あと半年したらプロポーズするんだ。それまでにオスを磨きに磨いて、セレーネに相応しい夫になるんだ!
「クリストファー、聞いて?」
「にゃんにゃ?」
「私ね、結婚が決まったの…」
「…………にゃ?」
ゴロゴロゴロ……ビシャーンっ!
────落雷直撃した。
黒猫だから真っ黒こげになっても、なんら問題はないぜ……。
でもちょっと一匹にしといてくれな……。
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