プロローグ

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拓海の母親は、泣きながらベッドへ駆け寄ると、 「拓海! しっかりしなさいっ! 拓海!」 と、大きな声をかける。 しかし、拓海の瞼はぴくりとも動かなかった。 それを見た三人は、大きな絶望感に襲われた。 誰も言葉を発する事が出来ず、 室内には、ただ人工呼吸器の機械音だけが響いていた。 それでも三人は、しばらくの間、傍で拓海を見守り続けていた。 それから数時間が経ち、夜の9時になった。 拓海の両親は、かなり疲れ切っている様子だった。 そこで、婚約者の茜は、 今夜は私が拓海の傍に付き添いますからと申し出た。 「何かあったらすぐに連絡しますから」 両親はその言葉に励まされ、 一旦家に戻り少し休む事にした。 拓海の父は、親戚にも連絡を入れてなくてはと呟く。 そして、茜に、 「よろしく頼みます」 と頭を下げると、今にも倒れそうな妻の肩を抱き、 病院の駐車場へ向かった。 その後、拓海と二人だけになった茜は、 拓海の枕元へ椅子を引き寄せ腰を下ろした。 拓海が事故にあってから丸2日以上が経っていた。 茜は事故後一睡もしていないので限界を感じていたが、 なんとか気力だけで持ちこたえていた。 しかし静かな病室で規則的なモニター音だけを聞いていると、 どうしても睡魔が襲ってくる。 『こんなに絶望的な状況でも、人間は睡眠欲には抗えないのね......』 そんなどうでもいい考えが頭をよぎる。 そして、茜は次第にうとうとし始めた。
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