348人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
1
眠りに吸い込まれながら、茜は夢を見ていた。
そこは、福島県のとある街だった。
道路脇の山沿いに、野生の藤の花が見事に咲いている。
公園にあるような整然と咲き並ぶ藤の花とは違い、
山肌に咲く藤の花は、野性味を帯びていて力強い美しさに溢れていた。
「うわぁ、ステキ! 野生の藤の花を見るのは初めてかも!」
茜は感嘆の声を上げる。
その時茜は24歳だった。
大型バイクの免許を取得したばかりの茜は、
休みを利用して、一人で福島までツーリングに来ていた。
今日の宿へ向かう途中、
山肌に咲く藤の花の群生を見つけた。
あまりにも見事な美しさだったので、
思わずバイクを停めて見入ってしまった。
そこへ新たなバイクの爆音が響く。
峠の道からもう一台バイクがやって来たようだ。
そのバイクは、茜の隣に並ぶようにして停まった。
茜よりも一回り大きいそのバイクには、
茜よりも少し年上と思われる男性が乗っていた。
最初のコメントを投稿しよう!