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眠りに吸い込まれながら、茜は夢を見ていた。 そこは、福島県のとある街だった。 道路脇の山沿いに、野生の藤の花が見事に咲いている。 公園にあるような整然と咲き並ぶ藤の花とは違い、 山肌に咲く藤の花は、野性味を帯びていて力強い美しさに溢れていた。 「うわぁ、ステキ! 野生の藤の花を見るのは初めてかも!」 茜は感嘆の声を上げる。 その時茜は24歳だった。 大型バイクの免許を取得したばかりの茜は、 休みを利用して、一人で福島までツーリングに来ていた。 今日の宿へ向かう途中、 山肌に咲く藤の花の群生を見つけた。 あまりにも見事な美しさだったので、 思わずバイクを停めて見入ってしまった。 そこへ新たなバイクの爆音が響く。 峠の道からもう一台バイクがやって来たようだ。 そのバイクは、茜の隣に並ぶようにして停まった。 茜よりも一回り大きいそのバイクには、 茜よりも少し年上と思われる男性が乗っていた。
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