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もやもや……。
丞相館の門を堂々とくぐった。そこの侍女らの態度は、やはり王女の頃と比べ、各段と緊張が増している。
侍女の中でもいちばん古株の者が応対に出てきた。実際、女王はこんな安易に下の者と対面してはならない。丞相の立場はいったいどこへやら。
ところで、どうもナツヒはこの館を出たらしい。
「え??」
侍女の説明では、彼は外交の出立前、家屋の建設を配下に命じていた。そして最近、そこへ移ったのだと。
「どうして? ずっとここに住んでいたのに……」
「私共がその理由を知ることはございません」
「ナツヒの新居はどこ?」
女王に尋ねられたら答えるしかない。侍女は、兵舎近くの林の奥だとユウナギに話した。
そこを目指して走りながら、ユウナギはまた悶々としていた。
――――確かに兵舎近くの方が、仕事するにはいいだろうけど。その身分でなぜ中央の外れに? もしかして、奥方と一緒に暮らすから? 少しでも静かなところに、ふたりでいたくて?
これを見かけた周囲の者らは「女王だ」「女王が走ってる」とザワザワする。
────私の護衛はどうするの! もう女王だから必要ないってこと? 死ぬまで自室に籠ってればいいのだからって!?
ユウナギはじわじわ苛立ってきた。だから行き先を失念するのだ。
「ええっと、どっちだっけ、兵舎の方って。……!?」
いったん立ち止まった彼女は、丞相の配下にあっさりと捕獲された。
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