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そこまで考えちゃいましたか。
以降、抜け出そうにも見張りは厳しく、不発を繰り返した。しかし日を経ると、まずまず見張りの緊張感も薄れてくる。月の見えないある夜、侍女服をまとい、機を見計らって暗闇の中を抜け出した。幾日過ぎても重苦しい気分が晴れないのだから仕方ない。それどころか、自分が放っておかれていることを許せなくなってきた。
夜分で道がよく見えない林の中は、けものがいないと分かっていても恐ろしい。彼女は松明を用意する心の余裕すらなかった。
注意しながらゆっくりと奥へ進み、そこを抜けたら兵舎だという頃、手前の細い分かれ道に気付く。そちらへ曲がって行くと、ひっそりと建つ藁葺きの家屋が目に入ってきた。
「ここが、ナツヒの新居……??」
それは小さな、庶民のそれと変わらない質素な家屋のようだ。ユウナギは戸の前で声を掛けようとした。が、いったん留める。
――――ここに彼女がいたら? 彼女に家を守る者として……迎えられたら、挨拶すればいいの? こんな夜分に私がきたら、何か誤解されてしまうかも……。もしふたりでいたら? もし、もしも夫婦の、営みのさなかだったら……。
「私はどうすれば……」
胸の音が早鐘のように鳴り響く。その時、後ろから声が上がった。
「誰だ!?」
ユウナギはその声と松明の灯りに驚き、とっさに逃げようとした。しかしつまずいて転び、あっけなく取り押さえられる。
声の主は彼女に乗っかり、両頬を掴んで顔を粗暴に寄せた。
「……ユウナギ?」
「っ…………」
彼女は何か言いたかったのだが、緊張の度が過ぎて言葉にならない。声の主ナツヒは押さえていた手をさっと離し、彼女から降りた。
「なんで、ここに」
「…………」
顔を背けるユウナギ。
ナツヒは転んだ彼女をいつものように引き上げようとするのだが、彼女は拒むような態度だ。とりあえず彼は家の戸口の篝火に、松明の灯を移す。
「どうしたんだよ、こんな夜遅くに」
「……散歩してるだけだから」
「いや散歩って」
「今日は月がきれいだし……」
「月出てない」
彼としては、見つけてしまったからには女王を早く屋敷に帰さなくてはいけない。しかし彼女はいうことを聞かないし、なんだか様子がおかしい。
「こんなところにいたら風邪を引く。さあ早く……」
「どうして隠すの?」
「ん?」
「本当は祝いに来たの。新居に」
「うん?」
ナツヒは意味がよく分からない。新居は新居だが。この夜分に手ぶらで祝いとは。
「奥方と一緒なんでしょ? ここに」
「??」
「それってひとりに決めちゃうってこと? それとも次の妻ができるまではここでってこと?」
「何言ってるんだ?」
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