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ほんとわけわかんねえ
「だって妻のとこに通うのが普通なのに。一緒に住むなんてひとりの妻に決めた時だけで」
「だから何言ってるんだ」
「…………」
ユウナギ本人もよく分からなくなってきたので、いったん黙った。
「何を誤解してるのか知らないが、ここには俺しか住んでない」
「……なんで?」
「なんでって何が」
「奥方は?」
「そんなのいない」
「え?」
ユウナギはその短い返事を頭の中で嚙み砕こうとして、目玉が上にいっている。
「……そう……。いないの……」
その時ナツヒの目に入ってきたのは、なんだかものすごく、放心したような笑顔の彼女だった。
そんな顔を覗きこんで彼は聞く。
「……お前、どうしてここに来たんだ?」
「え?」
頭に血が上ってきたか、彼女の両腕をがしっと掴んで彼は叫ぶ。
「どうしてこんな夜に! ここに!? なんでそんな訳の分かんねえこと言ってんだよ!」
「いっ、痛い、ちょっと、力入れないで……」
ユウナギは彼の様子がいつもと違い、またも少し怖いと感じる。
「あっ……」
そこで例の風を感じた。さすがにこれにも慣れたが、この空気はすこぶる冷たくて震えてしまう。温もりが欲しくなる。
一方ナツヒは、また怖がらせてしまったと気付いて怯んだ。そんな彼の胸に、ユウナギは自然と飛び込んでいったのだった。
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