月夜の天使 -月明かりの魔法店-

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 その夜は美しい満月が浮かんでいた。  大学受験に失敗し、自暴自棄になっていた僕は、誰もいない深夜の駅のホームで最終電車を待っていた。  当日になって風邪を引いたことは運が悪かったとしか言えない。予防はきちんとしていたし、人並みの睡眠時間だって確保出来ていた。受験のことだけでなく、体調を壊したことを責められ、ここまでに費やした時間すべてを否定された気がした。努力しても結果が出なければすべて無駄。それなら何のために生きているのか。いっそのこと、違う世界に行ってしまった方がどれだけ楽か。  遠くから、僕を誘う電車が近づく音が聞こえる。最後にもう一度美しい世界を見ておこうと、空を見上げた時だった。  僕は、月を横切る天使の姿を見た。  今際の際に見る幻かと思った。  見た目は中学生ぐらいの女の子。彼女は美しく輝く光の翼を背負って、優雅に月夜を飛び、北西の方角に向かって消えていった。  気付いた時、僕は彼女を追って駅を出ていた。  唐突に現れた天使の姿。ある意味で、僕にとっては都合のいい、現実から逃避できる格好の材料だったこともある。それ以上に気になったのは、彼女の表情がとても悲しげに見えたことだ。
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