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彼女が消えた先には、森が広がっていた。普段は人が入り込むような場所ではない。こんな夜に迷い込めば、方向感覚を失ってしまうかも知れない。どちらにしろ諦めていた人生だ。そうなってもいいと思っていた。
入りやすそうな場所を探して歩いていると、道脇に小さな祠を見つけた。スマホのライトを照らすと、中には赤い前掛けをしたお地蔵様が納まっている。
普段から通る道だが、こんなものを見かけた記憶はない。
『悩みを抱えているようだね』
不意にどこからか声がして、僕は辺りを見回した。こんな時間に歩いている人などいない。空耳だったかと思ったが、すぐに声の主がわかった。お地蔵様がぼんやりと光っているのだ。
『君が望むなら、この先に進むと良い。魔法を売っているお店がある』
あまりに唐突な状況に理解が追いつかない。天使を追ってきたら、お地蔵様が喋りだし、挙句の果てに魔法を売る店があるという。もしかして、僕は既に違う世界に旅立っていて、夢を見ているだけではないか。
お地蔵様はそれきり喋らなくなった。ついさっきまで気づかなかったが、祠の脇に森の中へ入れる小道が続いている。
僕は半ば吸い込まれるようにして、森の中へと進んでいった。
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