6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
満月が照らす森の道を進むと、湖の畔に赤い屋根の丸太小屋があった。そこは月明かりの中に浮かび上がる、不思議な場所だった。窓から明かりが漏れているので誰かが中にいるようだ。未だに夢か現実かわからないまま、僕は入口の前に立った。
〝OPEN〟と書かれたドアプレートがかけられた扉を開けると、チリンと鈴の音がした。
「いらっしゃいませ」
女性の声が僕を出迎える。正面に長い黒髪が印象的な、可愛らしい女性が座っている。
建物の中はアンティークの家具や本棚などが並ぶ、お洒落なインテリアだ。そして、入り口横のテーブルを見て、僕は思わず視線を止めた。
一人の少女がこちらに背中を向けて座っている。そっとその横顔を覗いて確信する。翼こそ無いが、間違いなくあの天使の少女そのものだった。
「どうぞ、こちらへお座り下さい」
うつむいてすすり泣いている少女に声をかけようか迷っていると、黒髪の女性の声がして、思考が遮られた。
僕はひとまず彼女に勧められるまま、正面の椅子に腰掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!