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「意識高揚の魔法?」
「この魔法を使えば、雑念が消え、高揚感が高まります。同時に集中力も高まりますので、勉強などもはかどることでしょう」
今更こんな魔法を使えるようになっても、受験をやり直せる訳じゃない。僕に対する皮肉のような魔法だ。そんな気持ちが顔に出ていたのか、彼女は困った表情をして、こちらをうかがった。
「もしかして、また間違えてしまいましたか……?」
「いえ、もう少し早くに欲しかったかなって」
「では、他の魔法にしましょう」
彼女がそそくさとカードを下げようとしたとき、ふと考えた。確かに今の自分は気分が落ち込み、死ぬことさえ考えている。そんな自分のような人間には有効な魔法なのかも知れない。
「待って下さい。その魔法は落ち込んだ気分を高めることも出来ますか?」
「もちろんです。特に辛いこと、悲しいことがあったときには、効き目がありますよ。お試しになりますか?」
ただ、問題はカードに書かれた価格の方だ。千二百万円なんて、あと何年バイトすれば稼げるのか。
「ご心配なく。当店でのお支払いは、お金以外にも時間を代価とすることも可能ですので」
彼女は魔法を買うに当たっての契約書を見せてくれた。それによると、時間での支払いにはいくつか方法があり、寿命や労働、記憶などを差し出せば、代価に出来るということだった。
どうせ捨ててしまおうと思っていた命だ。たった五百日分の寿命で魔法を得られるのなら、願ってもないことだ。
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