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「これは、あらゆる事象における〝等価交換〟を成立させるための魔法です。特別にこの魔法を一度だけ使えるようにして差し上げましょう」
彼女はカラフルなミサンガを引き出しから取り出して、手のひらに乗せた。
「利益を得る代わりに、相応の何かを差し出すか、不利益を引き受けること。これを等価交換と呼んでいます。時間でも、記憶でも物でも構いません。必要とする魔法の力に見合うだけの代価を自由に選んで頂けます。もちろん、お客様の場合は寿命以外でお願いしますね」
つまり、魔法を使うための代価になる何かを支払えばいいわけだ。
「不利益を引き受けることも可能ということは、自分以外の誰かの不利益を肩代わりしてもいいんですよね」
「もちろんです」
僕は、ずっと背後で泣いていた彼女の方を振り返った。
「例えば、あの女の子の悲しみを引き受ける、ということは出来ますか?」
「可能です」
自分でも、なんでそんなことを口走ったのか、よくわからなかった。ひとりで泣いていた彼女がかわいそうだと思ったことは確かだが、もっと別の感情が働いていた気もした。
「代価に換算すると、〝意識高揚の魔法〟を一回だけ使用することが出来そうですが、それでよろしいですか?」
「お願いします」
僕をこの店に導いたのは外でもない彼女だ。名前も知らない彼女だが、せめてものお礼になるだろうか。
「〝意識高揚の魔法〟を込めたミサンガも一緒に差し上げます。こちらは身につけるだけで任意のタイミングで魔法を発動させることが出来ます」
僕は二本のミサンガを受け取り、右腕につけた。
「では、今から等価交換を実行します」
彼女がこちらに手をかざすと、すっと頭の中に映像が浮かんできた。
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