7人が本棚に入れています
本棚に追加
天使の女の子によく似た女性が、こちらに話しかけている。僕は今、女の子の記憶を見ているのだ。
「何か、辛いことがあったのね」
そう言って抱きしめてくるのは、女の子の母親のようだ。彼女は病気に冒され、若いうちに亡くなってしまう。どういう手段かはわからないが、女の子はそれを事前に察知しているのだ。
目の前にいる母親を助けたいが、助けられない。歯痒さが入り混じった悲しみが渦を巻いて、僕の中に流れ込んでくる。家族を失う悲しみはこれほどまでに大きいのだ。
僕は、強すぎる悲しみに飲み込まれ、涙を止めることが出来なくなっていた。今まで人前で泣いたことなどないというのに。心が押しつぶされそうになる前に、僕はミサンガに込められた魔法の力を解き放った。
すっと波が引くように、心が落ち着いていく。同時に自分の家族のことが頭に浮かんできた。
生きることを諦めるのは簡単だ。でも、その後のことまで僕は考えていただろうか。彼女の悲しみに比べれば、自分の悩みなど、ちっぽけなものに思えた。
最初のコメントを投稿しよう!